戯れの神芝居

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 迎えた照美の父の誕生日。紫音は、その日のことを何も聞かされていなかった。が、突如、照美から呼びだしがあった。  だが、その前の日から紫音は麗子とまったりと過ごし、あくる日も麗子と一緒にキャンピングカーで遠出する予定だった。  急遽、照美から連絡を受けた紫音。易々と照美の誘いには断れないでいた。そして、いつものごとく自分の姿に化けれる紅炎に代役を頼んだ。それも、照美の方へと。やはりいくらなんでも麗子にだけは紅炎に触れさせたくはなかったのだ。  最高神である照美を蔑ろにはできないが、かといって、女と自由も放棄できない。紫音が無い頭をひねり出した答えが、例のごとく紅炎に代役を頼むことだった。  これがそもそも間違いだった。普段から紅炎には、なにかと自分の身代わりを頼んでいた紫音は、どの女性にもバレていないと高を(くく)っていたのだ。  今まで他の女性からも照美からも怒りの声は届いていない。安堵していた紫音は、その日、麗子と楽しいひとときを過ごしていた。  だが、何も聞かされていなかった紅炎は大勢の前で照美の婚約者として挨拶をする羽目になっていた。  その直前に急いで紫音に念話で話しかけるが、あいにく紫音が遠方に出掛けていたとあって連絡がとれないでいた。  そうこうするうちに、皆の前で婚約者として正式に紹介された紅炎は、ときどき作り笑いをするのが精一杯で、早くこの時が終わってくれないかと願うばかりだった。  いきなり婚約者を紹介され、照美の親類縁者は驚きもしたが同時に盛大な祝福もしてくれた。そうして父親の誕生日パーティーも無事に幕を閉じたのだった。  翌日、至福の時を過ごした日から一変、紫音の顔が青ざめた。紅炎から報告を受けた紫音は、急いで照美に会いにいく。 「照美! 昨日、照美のお父さんの誕生日パーティーに行ったんは俺やのーて……」  紫音がそこまで喋ると、照美が紫音の言葉を封じるように手のひらを差し向けた。 「えっ!?」 「紫音、昨日は皆の前でちゃんと挨拶をしてくれて、おおきに。ありがとな。私はすごく嬉しかったぞ。やっぱりお前は私と一緒になりたかったんやな」 「………」  そう言うと照美が感心した面持ちで深々と頭を下げた。恐縮する紫音。そんな紫音を見つめた照美は、畳みかけるように言葉を添えた。 「でもやっぱりさすがやな、他の女の時のように紅炎さんをよこさんかったんが偉いな。紫音、気づいてたんやろ? 昨日、私に婚約者として紹介されることを。まさかそんな大事な日に、紅炎さんに代役を頼むなんてせーへんもんな。ほんまさすがや、惚れ直したぞ、紫音」  なぜか言葉の最後に、怪しげな黒いハートマークが照美の口から出てきたような気がする。 (どういうことや? 誰にも紅炎を代役で差し向けたなんか言ってないぞ! なんでそれを知ってるんや? あっ! ヤバい、しまった!! 心を読まれんようにすんのを忘れたしもーた…)  恐る恐る照美の顔に目を向けると、口許を緩めニヤニヤしているのが見てとれた。それに、どこか勝ち誇ったような顔つきにもなっている。  そのような照美を凝視した紫音は、すぐに自分が大きな(あやま)ち犯したのだと気づいた。  しかし、時すでに遅し。まんまと照美の策略に嵌まった紫音は、今までの人生のなかで最大の後悔をすることになったのだ。
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