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「クッ…体がまったく動かんぞ、これはいったいどういうことや…?」
「俺もぜんぜん動きませんわ、なんか重たいもんを載せられてるって感じで…」
突然、体の自由を奪われ、拳輝と他の仲間達は何が起こったのか呑み込めないでいた。
そんな彼らを見下ろし、涼しい顔を浮かべた紫音がつぶやいた。
「はい、終了」
パチ、パチ、パチと単発の拍手が起こると、次第に複数の人が手を叩きだした。
「おおー、やはり言うだけのことはありましたね、紫音さん、おみそれいたしました」
鈴木が拍手をしながら前に出た。
「ほんまやな、これやったら、この人に賭けてもええかもしれまへんな」
今度は大阪の商人口調の声がする。70ばかりの貫禄のありそうな男性だった。
「そうでしょ山崎さん。あっ、紫音さん、紹介しますね、この方は、堺屋商事の会長さんの山崎さんですわ」
「あっ、あの大手商社の…どうも、はじめまして、葉山です」
その後も鈴木に日本を名だたる経営者達を紹介される。一通り面通しが終ると、鈴木が皆に質問タイムを設けた。
「それでは、皆さん、紫音さんの提案を受け、なにか質問のある方おられますか?」
鈴木は、単刀直入に明日の試合で紫音に10億円を賭けることの提議に入った。
「はい」
「では、平成電産の日下さん」
「あのぉ、うちの会社もウイグラルの工場を完全に撤退したいと思ってるんですが…、いかんせん、うちの役員の数人が人民義勇軍の将校の娘と結婚しておりまして、それをどうしたら良いものかと…」
それを聞きすぐに紫音が口を動かした。
「日本に連れて帰る、それが嫌なら別れさせたらええんとちゃいますか?」
紫音が出したのは、非常にシンプルな答えだった。
「いや、ですが子供もいてまして、もしうちの会社が撤退となると子供には会わせないって言ってくるだろうと…」
「それは俺に聞かれても答えようがありませんわ、あくまでもこの国から撤退したいんやったら、明日の試合で俺に賭けてくれって話なだけですから」
「では、次、質問のある方おられますか?」
「はい」
次に弱々しく手を上げたのは、子供のオモチャや衛生用品、ペット用品などを生産している一流メーカーの社長だった。年の頃は60才ぐらい、どこにでもいそうな中肉中背のハゲかかった男性だ。
「では、八味さん、どうぞ」
「はい、私どもの会社もウイグラルから撤退を考えてるんですが…」
と言って八味が言葉をつまらせた。
「どうしました、八味さん?」
それ以上、喋らない八味にしびれを切らした鈴木が声をかける。
「いや、すいません、やっぱり大したことないので、別にいいです」
歯切れの悪い物言いがいやに気になった。紫音は八味の思考を読んでみることに。
(なるほど、このおっちゃん、かなりの弱味を握られとるんやな。完全に嵌められとるやん。そやけど、いくら奴らにあてがわれたからって小学生ぐらいの女の子と遊んだらあかんやろ。嵌められて填めたってか、まじで洒落にもならんな…。それを撮影されとるんやから、救いようがないアホや。まあ、それでも俺に賭けてくれるんやったら、なんとかしたらなあかんな…ほんま、ええ年こいてよーやるで)
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