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「うっ……ハァ~ハァ~、し、紫音さん、すべて話しますんで、ちょっとだけ待って…ください」
そう言って、紫音と重なりあったまま静止した状態がしばらく続くと、鈴玉は少し落ち着きを取り戻し重い口を開いた。
「実は、私が預けられたお寺は、少林寺の裏の寺とも云われている妙林寺だったんです」
「裏の寺の妙林寺?」
「はい、男が表で女が裏という考え方です。その隠れ寺で来る日も来る日も厳しい修行を積んできました」
「ふむ、で、尼寺やのになんでそんな少林寺みたいな修行をしてたんや?」
「それは、私たちにはある使命があったからです。──紫音さん、斉天大聖ってご存知ですか?」
「あ~、孫悟空のことか?」
「そうです、別名、孫行者ともいって道教の神様とも云われた方なんです」
「で、その孫悟空がどうしたんや?」
「はい、妙林寺では、斉天大聖様の遺骨を大切に祀っているんです。それと、生前のお召しものと東海竜王から奪ってきたと云われている如意金箍棒と、頭にはめられていた緊箍児とです。この緊箍児とは、三蔵法師や観音様が呪文を唱えると頭を締め付ける輪っかのことなんです。──私たちの使命は、それらを守ることだったんです」
「でも、体を鍛えるんと何の関係があったんや?」
「それは、斉天大聖様の遺骨と遺品を狙う輩が少なくなかったからなんです」
「でも、そんな昔のもんを盗ってもしゃーないやろーに」
「いえ、あの遺品はどれも色褪せておらず、お師匠様の話では、斉天大聖様の血を受け継いだ力のある者なら今も十分に効力を発揮するとおっしゃってました。それに、斉天大聖様のお骨はお釈迦さんの舎利佛のような不思議な力があるとかで…」
「マジでか!?」
このとき紫音は、ふと照美の言葉を思い出した。
(なるほどな、日本を経つ前に照美が意味ありげなことを言ってたんはこのことか…)
──── 紫音、あっちでは、お前のルーツをたどれるように縁を結んどいたしな ────
(前に大鬼に変身したとき、照美は俺のことをゴリラと笑ってたけど、あいつの目には俺がゴリラに写っとたんやな。どうも、鈴玉の過去世をみてると、ごっつい孫悟空が目に浮かぶ。ほんまもんの孫悟空は元々、猿やのうてゴリラみたいな鬼やったんや。けど、そのゴリラ似の鬼が俺のご先祖さんやったとは夢にも思わへんかったな…)
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