死練《しれん》

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死練《しれん》

 時を同じくして、オロジャッジグループの本部を訪れていた鬼隈と竜一は再び踏み絵のような試練を受けていた。  レンガ造りの頑丈そうな家屋。中に入ると真っ先に格子状のインテリアが目に映る。壁に丸い穴を開けたような出入り口の月亮門(ムーンゲート)をくぐると紅木家具が配置された茶室兼宴会場があった。新進の画家が描いた龍や著名な書道家の書を、壁一面に飾っている。日本の漆が塗られた紅木家具の上には高級そうな骨董品が所々に並べられている。  広々とした圧迫感のない豪華な部屋。外壁側の大きな窓からは、きらびやかな夜景が見下ろせる。  そのような部屋の中央には豪華そうな長テーブルが据え付けられていた。40席以上はある椅子には人相の悪そうな男達が神妙な面持ちで腰を落としている。その上座には壇上のような別のテーブルがあり、どっしりと座っている4人の男が。50から60ばかりの位の高そうなこの男達は、オロジャッジグループの四天王と呼ばれた者達だ。  緊迫した雰囲気のなか、今まさに宴が始まろうとしていた。  しばらくするとメイド達が前菜を運んできた。テーブルに人数分の皿が置かれグラスに酒が注がれると、四天王の一柱が口火を切った。 「よくぞ参った、歓迎するぞ。──ところで竜一と鬼隈よ、つかぬことを聞くが、お前達は精力に効く熊の胆嚢(たんのう)を食べたことはあるか?」 「いえ、ありません」 「では、鬼隈は?」 「オレは漢方でならありますわ」 「では、その胆嚢はどうやって取りだすか知っているか?」 「いえ、知りませんわ」 「フッ、それはな、狭い檻の中に熊を入れて大勢で棒でつつくんだ。すると熊が猛烈に怒りだすだろ。その怒りが頂点に達したときに一気に殺す。そうすることで、精力に効く上質な胆嚢が取り出せるんだよ」   「そうですか…」 「ふむ。──今宵は、竜一と鬼隈に我々の晩餐の食材を取ってきてもらおうと思うんだが、よろしいかな?」 「……熊を()ればよろしいんで…?」  と、竜一が訊ねた。 「フッフフ、それは見てからの楽しみにとっといてくれ」
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