死練《しれん》

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 鬼隈の幻影術を簡単に見破った四天王達。その配下の者達が血眼になって鬼隈と子供達を追っている。だが、竜一は頭から大量の血を流し地下牢で意識を失っていた。  鬼隈が仲間割れを装い殊更(ことさら)、竜一に大きな怪我を負わせたのだ。  少し前、鬼隈は十八番の幻影術を使い彼らの目を騙していた。その隙に子供達と一緒に部屋から逃げだしていたのだ。だが、10人近くいる子供達と共に逃げるのは困難を極めた。  外に出ようとする鬼隈が、渾身の衝撃波で分厚い壁を突き破ったのはいいが、ものすごい爆発音ですぐに居場所がバレてしまう。 「いたぞ! あっちに逃げたぞ!」 「まわりこんで包囲しろ!」  鬼隈と子供達は、庭園に出たところであっけなく見つかった。 「お前達は、真っ直ぐあっちの門まで走れ、頑張れるか?」  子供達に裏口のゲートを指差す鬼隈。子供ながらに緊張した面持ちのひとりの男の子が目をパチクリさせながら頷いた。 「よし、えらいぞ、坊やがみんなを連れていってやれるか?」 「うん」 「そっか、よしよし、じゃあなぁ、外に出たらオジさんのお友達が迎えに来てるから、みんなを連れて早く行け!」  裏口のゲートの外には三郎太と日本から連れてきた鬼族の仲間も待機していた。  彪鬼(ひょうき)に地下へ行けと指示を出さたとき、嫌な感じがした鬼隈が念話を用いて三郎太に呼びかけていた。逃走ルートを確保していたのだ。  けれども大きな誤算があった。まさか年端もいかない子供達が捕らえられていようとは。決して放ってはおけなかった鬼隈は子供達だけでも助けようと必死だった。  歯をくいしばった幼児達がたどたどしく走る後ろ姿を見届けると、鬼隈は後ろを振り返り複数の追っ手を見据えた。  血相を変えて勢いよく向かってくる四天王の配下の者達。鬼隈は、子供達に逃げる()を与えようと戦闘体制に入った。  とうに夜の(とばり)が下りている。灯りは庭園内の池の縁にあるいくつかの照明だけ。  その薄暗さと池を利用し、鬼隈が得意の幻影術で水面(みなも)から複数の河童(かっぱ)を飛び出させた。  おかっぱ髪が肩まで垂れ、頭上には皿がある。10才ぐらいの子供の姿。身長は約1メートルの痩形。皮膚は緑のものや青黒いものいれば灰色のものもいる。体は生臭く、ぬめり具合が魚のよう。手が長く指の間には水かきがあり、鳥のような足跡をつける足の指は四本で爪が長い。眼は丸く、それでいて瞳は鋭く光っており口は(くちばし)状になっている。歯は亀のように奥歯が尖り、背には固い甲羅が見てとれる。  そのような風貌を初めて見た敵は恐れおののいた。得体の知れない化け物だと思ったようだ。  というのも、河童は日本特有の妖し。西遊記で知られる沙悟浄は本来は河童ではなく、河伯(ホーポー)と呼ばれる黄河の神だ。
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