死練《しれん》

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 河童が、追っ手の鬼達の前に立ちはだかった。 「きぃ~ーー」「キュー~ー」「ぎゃぁ~ーー」  興奮したような甲高い奇声をあげた河童が不気味に笑う。濡れた髪からポタポタと水滴を落としながら鬼達に向かっていく。 「…な、なんなんだ、こいつらは!?」 「なんでもいい、こんな気持ち悪い化け物、さっさっと殺ってしまえ!」  河童達と鬼達が入り乱れて闘うなか、宴席の窓からヒューっと風のように流れてきた者がいた。四天王の一柱、彪鬼(ひょうき)だ。  その彪鬼(ひょうき)が鬼隈の頭上に爪先を立てた。鳥の羽根が一枚のったぐらいの重さ。腕組みをして、真下に目をやりながら鬼隈に話しかけた。 「なあ、鬼隈よ、お前達がもったいぶっている鬼神だがな…、我らがいまだに奴の力を欲しているとでも思っているのか?」  彪鬼の術で鬼隈は金縛りにあったように身体が固まっている。だが、目と口だけは動かせた。 「なに!…?」  鬼隈は、眉根にシワを寄せたまま黒目だけを上に動かした。 「いいだろう、見せてやろう──おい! 彼をここへ」 「はっ!」  彪鬼は近くにいる配下の者に指示を飛ばす。  ほどなくして、配下の者が1人の男を連れてきた。鬼隈がその男に視線を向けると、目を丸くして言葉を失った。なぜなら、紫音と瓜二つだったからだ。 「フッ、えらく動揺しているようだな」  今も彪鬼は鬼隈の頭上に爪先をのせて、喋っている。 「……これは、どういうことや?」 「よかろう、特別に教えてやろう。彼は奴のクローン。女好きな鬼神の遺伝子を採取するのは容易なこと。鬼隈、これで理解できたかな?」 「………」
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