死練《しれん》

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「フッフフ、どうだ、これでも信じられんか?」  彪鬼(ひょうき)が、したり顔で鬼隈に聞く。  徐々に土埃が晴れていく。と、大きな巨体が見えてきた。巨大な蛇だ。その大蛇が子供達を庇い裏口の門を塞ぐようにして横たわっている。かなりダメージを負っているよう。平べったい頭の部分の蛇体から肉と骨が見え、鮮血がしたたり落ちている。  鬼隈が目を凝らしてよく見ると、巨大なコブラに変身した竜一だった。 「…あいつ……」 「なぁ~にぃー、竜一も裏切ったということか!?」  そう彪鬼がつぶやくと、配下の者達に子供達を追うよう命を下す。  だがこのとき、鬼隈も門の外にいる三郎太に念を飛ばしていた。早く子供達を連れて逃げろと。  しかし、小鬼の三郎太はそのことに戸惑いを覚えた。このまま兄貴分である鬼隈を見捨てる訳にはいかない。なんとしてでも、助けなければ。 『アニキ、今、助けにいきますわ!』 『来るな!』  念話での押し問答が続く。  時間がない。もうすでに追っ手がゲートに迫っている。見かねた鬼隈が、強烈な念を用いて三郎太に怒声を浴びせる。 『アホか! 全滅したいんかっ !! お前らがこっちに来ても勝てる相手やあらへん。さっさっと子供達を連れて逃げろ! 紫音にも伝えろ、作戦は失敗、撤退しろと!! わかったなら、早く行け!』  舌鋒(ぜっぽう)鋭く言い放った後、鬼隈は眉間に力を込め呪文を唱えた。 ──六根清浄(ろっこんしょうじょう)急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう ) ──  はんぱな力しか持たない鬼隈が大妖の鬼とまともに戦える訳がない。そこで考えたのが陰陽師の術を習得することだった。この国へ来る前に陰陽師達に指南を受けていた。さいわい、鬼隈だけが陰陽師の術に適応できた。というのも、人の血が入っているのもあるが、念じる力が誰よりも強かったからだ。
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