死練《しれん》

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 鬼隈が術を唱えるやいなや、金縛りにあっていた身体が自由になる。彪鬼(ひょうき)の術が解けたようだ。  ただならぬ神通力を感じた彪鬼は、咄嗟に鬼隈の頭上から飛び降りた。  その刹那、鬼隈が手刀で空中に四縦五横の格子を写し出す。人差し指と中指の二本を刀に見立て格子を描く破邪の法。突如、現れた光る格子は(やいば)のネットのようなもの。それに触れたら最後、鬼や怨霊などはばらばらに引き裂かれる。 ── (りん)(ぴょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ざい)(ぜん) ──  呪術を唱え終えたとたん、刃の格子が彪鬼に突き進んでいく。 「笑止」  すぅーと目を細めた彪鬼は、近くにいた配下の鬼を念動力のような妖術で、向かってくる格子に投げ飛ばした。 ── ぎゃああぁぁーー!! ──  断末魔の叫びと共に下っ端の鬼が切り刻まれると同時に格子が消滅する。 「無駄だ! どこでそんな術を覚えたか知らんが、その程度ではワシは倒せんわ」  彪鬼が、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で言い放った。 「じゃーなー、これはどうや!」  次に鬼隈が放った術は、念の力で式神を出すことだった。それも再び河童を。この河童は幻影術で生み出した河童ではなく、式神としての河童だった。物理的な攻撃力も大いに備えている。それに合わせ、幻影術で生み出した河童も50体ほど増やした。  どれが式神の河童なのか、どれが幻影の河童なのかわからない。まさに分身の術。  その河童達が、奇声をあげていっせいに彪鬼に襲いかかる。 「きぃ~ーー」「キュー~ー」「ぎゃぁ~ーー」…………  これに面食らった彪鬼は当惑しながらも、一体一体の河童に打撃をくわえていく。  鬼隈の有効な攻撃だった。だが、鬼隈の術はこれだけでは終わらなかった。間髪いれずに陰陽師に教わった鬼封じの術を放つ。その隙に子供達が無事に逃げれることを願いながら。  というのも、鬼封じの術は直接的な物理攻撃ではなく、結界を張るのを主とする術。文字通り鬼を封じるための結界だ。  その結界をこの庭園内に張り巡らせた。これで、鬼や蛇の妖し達は子供達を追うことができなくなる。この敷地内に彼らを封じ込めたのだ。少しでも時間を稼ごうと鬼隈が考えたこと。
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