死練《しれん》

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「あの彪鬼(ひょうき)が、手こずっておるだでよ」  宴会場の窓から四天王の一柱、巴蛇(はだ)が、つぶやいた。  それを聞き「ほぉ~」と、おもしろがる奴がいた。黒鬼(こっき)だ。人の姿に化けても身長が3メートル以上もある図体(ずうたい)。彼も四天王の一柱。属性は彪鬼と同じ大妖の鬼だ。 「で、どうするだで? 加勢するだでか?」 「ふんっ、そんなことしてみろ、奴の恨みを一生、買うことになるぞ。あいつは、ああ見えてもプライドだけで生きているような男だからの」  彪鬼を誰よりも知る黒鬼が、外の様子に目を向けながらいう。  この国の政権を影であやつる大蛇(オロチ)。その大蛇(オロチ)が組織するオロジャッジグループの最高幹部である四天王達。残りの四天王達が外の様子に興味を示すなか、鬼隈と彪鬼の勝負が終わりを迎えようとしていた。  身体にまとわりつき、いちどに覆い被さってきた河童達をあっという間に跳ね退けた彪鬼は、不思議な妖力で河童達を次々と消滅させていった。すると、鬼隈が生み出した式神の河童が一体だけ残る。  力自慢の河童が彪鬼の腰をつかむ。相撲をとるように腰に力を入れ彪鬼を持ち上げた。  片や、彪鬼は身体を持ち上げれながらも頭のてっぺんにある皿に手刀を喰らわせた。とたん、皿にヒビが入り、あっけなく河童が消滅する。  それを見た鬼隈は再度、術を唱えようとする。だがこの時、彪鬼は勝ち誇ったように声をあげた。 「そこまでだ、鬼隈! あれを見ろ!」  彪鬼が指差したのは、裏口のゲート近くに横たわる巨大コブラ。その大きな頭の上に紫音のクローンが立っている。そのクローンは竜一の頭に掌を向けていた。 「クッ……」 「まだやるというのなら、奴にとどめをさせるが…」  闘いをこのまま続ければ間違いなく竜一が殺されてしまう。こいつらのことだ、何の躊躇もなく殺ってしまうだろう。    もうどうしようもなく観念した鬼隈は刀に見立てた人差し指と中指の力を抜いた。
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