死練《しれん》

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 厚さ30センチはある核シェルターのようなコンクリートの壁。剥き出したコンクリートの内壁が剥離し鼠色と白の(まだら)模様が浮かびあがっている。そのような牢屋の中に鬼隈と竜一が捕らわれていた。  鬼隈の頭には念力を封じる特殊な三国時代の古代(かぶと)が被せられている。それに、頑丈そうな手枷(てかせ)や足枷も嵌められ手足の自由を奪われている。 「イヒヒヒ、ヒヒ、お前達の処刑は明日にでも行われるぞ。イヒヒヒ、ヒヒヒ」  牢の番人もかねてか、魔女のような鼻をした老人が楽しげにしゃべりかけた。 「おい、ひとつだけ聞かせてくれ」 「ん、なんだ?」 「ここに連れて来られるまでに、ゴッホとダ・ヴィンチのようなオッサンが絵を描いてるように見えたが、あれはなんや?」 「イヒヒヒ、ヒヒ。明日、死ぬお前が知ってどうするね。イヒヒヒ」 「……」 「まあ、いいだろう、あの画家達はクローン。さっきも鬼神のクローンを見たんだって。まったく同じ遺伝子からできたクローンよ。それで、そいつらに絵を描かしたらどうなるかな? イヒヒヒ、ヒヒ」 「なるほどな、けど、生まれ育った環境や人生経験も違うのに、当時のような絵を描けるのか?」 「お前がそんな心配してどうする。もう今では十分に絵画ビジネスが成り立っておるわ」 「同じ画家に同じ絵を描かしてるってことか?」 「イヒヒヒ、もう、おしゃべりはそのぐらいにしな。お前達は明日に備えて神にでも祈っとけ。イヒヒヒヒ」  鬼隈は腑に落ちなかった。いくら同じ遺伝子から作りだしたからといっても、すべてが同じだとは限らない。どんな生物でも生まれ育った環境や素質、努力によって変わるはず。  それゆえに、クローンの力量や才能には懐疑的だった。特に紫音のクローンに関しては。  だが、今はそんな悠長なことを考えている暇はない。どうにかして竜一を連れてここから逃げ出さなければ。傍らにいる竜一は紫音のクローンが放った衝撃波をまともに喰らい息をするのがやっとの状態。かなりのダメージを負っているよう。  前々からの幹部達の噂によれば、仲間の裏切りによる処刑はタクラマカン砂漠で行われる決まりになっている。  タクラマカンとはウイグラル語で『死』や『無限』などを意味し、一度入ったら出られない死の砂漠。大清国の北西部に位置し、広さは日本の国土の約4倍。 その一帯にある直径5~50ミクロンの微粒子の砂が黄砂の正体だと云われいる。
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