鬼が出るか蛇が出るか

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鬼が出るか蛇が出るか

 そして……  約2時間後、肉の世界をとことん堪能した紫音は、頬がこけ、目の下にはクマができていた。さすがの紫音も昨夜からの濡れごとで困憊(こんぱい)していた。  もうすぐ、生死を賭けた試合が始まろうとしているのに… 「さあ、みんな、そろそろ行かな間に合えへんぞ」  ベッドに横たわる美女達に、紫音は声を振り絞るようにして急き立てた。  未だに目がとろ~んとし興奮が冷めやらぬ美女達も、試合のことを思いだし、はっと我にかえった。雪麗(シュェリー)鈴玉(リンユー)は、急いで服を選びだす。  麻美(マーメイ)とブティックのスタッフも営業モードに切り替え、お客様である彼女達のお手伝いをする。紫音も、動きやすい服に着替えようと動きだす。  スーツケースがあるクローゼットへ向かう途中のプールサイドには、誰の姿も見えなかった。が、昨夜の激しさを物語るように、そこらじゅうに残害が落ちていた。クシャッと丸められたティッシュや使用済みのコンドームが散乱していたのだ。  それを見て、「フッ」と鼻を鳴らした紫音は、先に中華料理を食べていた部屋に行く。なぜなら、テーブルの上にスマホを置き忘れていたから。  丸い食卓に目を落とすと、スマホの通知ランプが静かに点滅している。タップして開けると、三郎太から何十回も着信があったようだ。  それを見た直後、紫音は嫌な予感がする。即座にコールバックすると、ワンコールもしないうちに三郎太の切迫した声が耳に突き刺さった。  しかし、あまりにも早口過ぎて何を言っているのわからない。だが、あせった口調と緊迫した声のトーンを耳にしただけで、ただごとではない状況なのだと理解できた。 「ちょっと、サブさん、落ち着いて! もっとゆっくりと…」 「せや…ら紫音さ…、アニキが…や……しま……」 「えっ、アニキ!? もしもーし、鬼隈さんがどうしたんですか?」  プーープーープーー……… 「えっ、あっ、切れてもた。なんや、電波わるっ…」  その直後、紫音のスマホのバッテリーも切れた。
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