鬼が出るか蛇が出るか

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「そうですね、タクラマカン砂漠もかなり広いんで……でも、その砂漠と隣接するウイグラルの市街地までなら飛行機で5時間くらいですよ」 「えっ、タクラマカンって、ウイグラルから近いのか?」 「はい、同じウイグラル自治区ですから」  マカオから約2千キロ北西に位置するウイグラルの街。その西には広大なタクラマカン砂漠が存在している。 「そうなんや。じゃあ、雪麗(シュェリー)の故郷のミベットは?」 「その下のヒマラヤ山脈の麓よ、私の故郷は」  すかさず雪麗(シュェリー)が答えた。 「ほんなら、隣り合わせでかなり近いんやな」 「いえ、近いといっても、千キロ近くは離れてるわよ。それで、どうして急にそんなこと聞くの?」 「いやな、2日前から俺の仲間がオロジャッジグループに潜入しとってんけど……、なんか詳しいことはわからんねんけど、今日にでも処刑されそうなんや」 「……! オロジャッジって! 裏でこの国の軍隊とか政治を操ってるって組織じゃないの? えっ! そんな大それたこと!?」  鈴玉(リンユー)が、この上なくおののいた。雪麗(シュェリー)もあっけにとられている。 「でも、よくあの組織に潜入できたわね」  雪麗(シュェリー)が心中を落ち着かせていう。 「まあ、それは話せば長くなるんやけど、とりあえず、なんとしてでも助けに行きたいんや」   「じゃあ、試合はキャンセルするの?」  どこか憂いを帯びた顔つきに変わった雪麗(シュェリー)が問いかけた。 「心配するな。それはちゃんと出るつもりや」 「それなら、どうやって助けに行くんですか?」  わけがわからないと、小首を傾げた鈴玉(リンユー)が紫音に尋ねた。 「そうやな…なら、もう1人の俺に頼もうか…?」  うっすらと微笑んだ紫音がそうつぶやくとジャージのポケットから、えんじ色の石を一つ取り出した。そして、石に向かって口を開いた。 「紅炎(こうえん)、出てきてくれ」  とたん、パッと紫音の向かいに座っていた鈴玉(リンユー)の隣に大鬼があらわれた。車の天井に頭があたるため首を曲げ窮屈そうに座っている。  身長が約3メートル以上。褐色の肌、左手に阿修羅の力をもつ剣、顕明連(みょうけんれん)を宿している。紫音が大嶽丸との戦いで勝利した戦利品を紅炎に授けたもの。そういう訳で、今や紅炎は最強の鬼と化している。  突如、現れた図体(がたい)の良い鬼に、雪麗(シュェリー)鈴玉(リンユー)はギョッと目が飛び出しそうになり、思わず後退りする。  雪麗(シュェリー)は紫音にしがみつき、鈴玉(リンユー)は窓側に張りついた。
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