鬼が出るか蛇が出るか

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「そんなにビビらんでも大丈夫や。彼は俺の仲間の紅炎や」  紫音がそう言うと雪麗(シュェリー)鈴玉(リンユー)はおそるおそる紅炎の方へ顔を向ける。ぎこちなくニコッと笑ってみせる紅炎。それを見た彼女達も顔を引き吊せて微笑み返した。 「これは、これは、ご婦人達を驚かせてしまい、かたじけない」  紅炎が恐縮するようにいう。 「い、いえ、あ、ははは、だ、大丈夫です。ただ、前置きもなしに、いきなり現れたものですから、ほんとうに驚いてしまいました。──それで、紫音さん、これは一体どういうことかしら?」  いきなりのことで動揺を隠せない雪麗(シュェリー)は、紫音に説明を求めた。 「うん、俺の代わりに、彼に試合にでてもらおうと思って。──なっ、ええわな紅炎?」 「ふむ、(わが)(あるじ)の頼みとあらば断ることはできませぬ」 「すまんな、紅炎、いつもいつも無理を聞いてもうて」 「ですが、紫音殿、大陸にきてまで女性(にょしょう)との戯れはだけはできませぬゆえ、そのへんは誤解なさらぬように」 「わかった、わかったって。ほんま紅炎は照れ屋やな…」 「………」  そこへ、鈴玉(リンユー)が当然ながらの疑問を投げかけた。 「でも、紫音さんの代わりって……もしかして選手を変更するってこと?」  すると、雪麗(シュェリー)が横から口を挟む。 「それはダメよ。もう大老様が選手交代をしてエントリーを済ませてるはずだから変更はありえないわ。それにあの軍人の(もう)に、なんて説明するの?」 「心配せんでも大丈夫や。紅炎は俺の姿に化けれるんや。なっ紅炎、ちょっと見せたって」 「おおせのままに」  紅炎がそういうと、ぶつぶつと呪文を唱えだす。次の瞬間、煙が紅炎の身体を包み込む。数秒後、その煙の中から紫音が現れた。 「うそっ !!」「マジで !!」  ふたたび驚き、思わず声をあげた2人はもう1人の紫音をしげしげと見つめた。
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