鬼が出るか蛇が出るか

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 一刻も早く鬼隈達を救出にいかなければならない。そんな居ても立っても居られない状況だが、代わりに紅炎が出場することなどを大老達に伝えなければならなかった。それに、昨夜、洞義(ボラギ)に見せられたバトル動画を紅炎にも見せてやりたかった。  すでに控室に入った紫音達。ソファーと診察台のようなベッドが置かれているだけの畳12帖ほどのシンプルな部屋。  そこへ、突如、埜僂(ノール)が声をあげて控室に飛び込んできた。 「決まりました。初戦の対戦相手は陳 佩芳(チン ベイファン)です」  息を切らせた埜僂(ノール)は、控室に紫音達が居ることに気づき頭を下げた。 「そうか、あの暴食の女豹(めひょう)佩芳(ベイファン)とか…」  彼女のことをよく知る洞義(ボラギ)が険しい顔つきにかわる。 「ん? 暴食の女豹って云われるぐらいやから、デブの女なんか?」  紫音が膝の上にのせた鈴玉(リンユー)の赤毛を珍しそうに触りながら質問をする。 「はい、太ってはいませんが女性です。ですが紫音さん、彼女をあなどってはいけません。あの女はなかなかの強者でして、今まで高額のファイトマネーが発生する地下格闘技において、負けたことがないのです。それにこれまでの試合とは違って今回は武器も所持できます。元々、彼女が得意とする武器は多節鞭(たせつべん)といって、その鞭は複数の棒を鉄のリングで繋いだもので先が鋭く尖っています。なので、突き刺すことも可能な鞭です。この国の古武術の一つなのです」  洞義(ボラギ)が力強く説明をする。   「へぇ~、そんな物騒な鞭もあるんやな…」 「はい、それで心臓を突かれて即死した者もいたのです」  そのようなとき、紫音の耳の奥から声がした。オーヴに入っている紅炎からだ。 『紫音殿、(われ)女性(にょしょう)とは闘いませんぞ』 『やっぱ、聞いとったか…。まあ、そう言うと思ったわ。わかった、それならこの女だけ、俺が相手するか、その女を棄権さす方法を何か考えるわ』  紫音が紅炎にそう答えると、またもや洞義(ボラギ)に問いかける。その後の試合を勝手に紅炎に棄権をされては困ると考え、一応、確認を取りたかった。 「それで、この試合には他にも女が出てるんか?」 「いえ、女性はこの暴食の女豹(めひょう)佩芳(ベイファン)だけです」  それを聞き肩を落とした紫音は、さっそく準備にとりかかる。ジャージのポケットからカラフルな石を7つ取りだし、中の者達を全員、呼び出した。
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