鬼が出るか蛇が出るか

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 紫音が人ならざる者達の名前を読み上げると次々と大勢の妖し達が石から出てきた。女郎蜘蛛の妖しである音糸(ネイト)華糸(ケイト)、鬼女の三姉妹の紅葉(クレハ)杏樹(あんじゅ)椿(つばき)、それに大妖の蛇の妖しである清姫(きよひめ)と大妖の鬼である紅炎(こうえん)が現れた。  突然のことで目を白黒させる洞義(ボラギ)ら三兄弟に、雪麗(シュェリー)鈴玉(リンユー)。  少しは免疫できていたとはいえ、彼ら彼女らは、信じられないといわんばかりに驚きを禁じ得なかった。 「う~~ん、はぁ~、やっと出れた」  メイド服を纏い、頭には角を隠すための猫耳メイドカチューシャをつけた紅葉が、ため息まじりにしゃべった。 「そうね~、今回はかなり長かったわね~」  そう口を開いたのは、真っ赤な牡丹の刺繍の入ったチャイナドレスを艶やかに着こなした杏樹だった。肩を揉みながら首をコキコキと鳴らしている。 「もうマジで、このまま出られないんじゃないかって、思ったんですけどぉ~」  次に言ったのは、いつも女子高生口調の椿だった。くノ一姿が、なんとなく似合っている。  はぁ~と、彼女達は長い間、狭い檻に入れられた虎が解放されたように、凝り固まった身体をしつこいくらいに何度も伸ばす。少し間をおいて伸びが終わると、今度は紫音の方へきつい視線を飛ばした。 「あら~、紫音さん、この国に来てまで女性をはべからせて、おひー様は大丈夫なのかしら?」  紅葉が嫌みっぽくいう。 「そう、確か婚約したんですよね」  同じく杏樹もいった。 「うんうん、私たち三姉妹がいるというのにね。──なんか、バリムカつき過ぎて、いっこも寝れなかったんですけどぉ~」  最後は椿が、ヤンキーが相手を睨みつけるように、眉をつり上げて顎を上下に動かした。 「…あっ、あのな……まあ、なんていうか、と、とりあえず、い、今はその話はおいといてやな…」  たじたじになった紫音に攻撃的な視線を緩めない三姉妹の鬼女達。その長女である紅葉は、紫音の言おうとすることを遮り、よりいっそう口調をきつくする。 「おい! このスケベ変態野郎のヤリチン! 私たちをキズモノにしといてタダで済むとは思ってないでしょーね!?」
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