鬼が出るか蛇が出るか

12/29
前へ
/187ページ
次へ
「まず、紅炎(こうえん)はさっき言ってた通り俺の姿に化けて優勝してくれ」  そう紫音が言うと洞義(ボラギ)が驚きのあまり声を張り上げた。 「ちょっと待ってください。いま、俺の姿に化けてって言ってましたよね?」 「そうや、紅炎はどんな姿にも化けれるんや。──紅炎、説明するんも面倒や、もう変身しといて」 「おおせのままに」  またもや紅炎の身体が煙に包まれると、あっという間に煙の中から紫音が現れた。  洞義(ボラギ)埜僂(ノール)(エイ)が前のめりになってもう1人の紫音を凝視する。よほど驚きを隠せないのか、ただでさえ細くて鋭い双眸がよりいっそう吊り上がっているように見える。  言葉を失った三兄弟に紫音が声をかける。 「こういうことや。で、聞いてもらった通り俺は仲間を助けにタクラマカン砂漠っていうところに行かなあかんようになったんや。だから、俺の代役を彼に頼むことにしたんや」 「……わ、わかりました。その趣旨を大老様にもお伝えしときます」  いまだ信じられないというような顔つきの洞義(ボラギ)がいった。 「さあ、それで紅葉と杏ちゃんと椿には、姿を消して紅炎を援護したってほしいんや。なんでかってゆうたらな、この試合には鬼とか蛇の妖怪がよーさん出場しとるんや。んで、その中には複数の鬼が姿を消して加勢してる奴もおるんや。──そやっ、百聞は一見に如かずや、洞義(ボラギ)さん昨日の晩、俺に見せてくれた動画をもういっぺん紅炎らに見せたってくれへんか?」 「わかりました」  数分後、洞義(ボラギ)の説明を受けながら、すべての動画を見終わった。紅炎と鬼女の三姉妹は納得した表情を浮かばせた。 「なるほど……、だが紫音殿、この程度の相手なら紅葉(クレハ)殿らの助っ人は無用でござる」 「まあ、紅炎そういわんと。今年はどんな相手が出場するかわかったもんやあらへんから、一応、保険を打っときたいんや。絶対にこの試合には負けられへんからな」 「わかり申した」 「で、この試合は当然、人間もでてるわけや。ルールでは相手を殺さな勝ったことにならへんねん。そやから音糸と華糸は、紅炎が対戦する相手が人間やとわかったら、事前に棄権するようにもっていってくれへんか?」 「そうですか……」  と、声を揃えた双子の音糸と華糸は、なぜか気まずそうな顔つきにかわる。 「ん? どうしたん、なんか気に入らんのんか?」
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

102人が本棚に入れています
本棚に追加