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リング近くに併設されているテーブル席には、実況アナウンサーと解説者がパイプ椅子に腰を落としている。そのまわりにはリングを囲むかたちで、試合を間近で見れる指定席が設けられている。すでにどこもかしこも満席状態だ。
── カンッ! ──
試合開始のゴングが鳴り響いた。
実況中継をするアナウンサーの声がスピーカー越しに闘技場全体へ、いきわたる。
「さあ、始まりました。7年ぶり開催された第2回バトルオブデスマッチ。予選の第1試合は、あの百戦錬磨の暴食の女豹、陳 佩芳! 対するお相手は日本から来た名もない格闘家、ハムサップロウです。えっ!? ハ、ハムサップロウ…? こ、これは、ふざけた名前ですね。しかし、身長は193センチ、体重が92キロとそれなりにウェイトのある選手です。えっと、ハムサップロウ選手の情報はあまりないのですが、暴食の女豹、陳 佩芳選手は、我が国の古武術である多節鞭の使い手です。──本日は、数々の武術のタイトルを獲得した趙さんにお越し頂いております。趙さん、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、どうぞよろしく」
「では、さっそくですが趙さん、この試合どちらが優勢だと予測しますか?」
「そうですね…、ハムサップロウ選手の情報がまったくないものですから、今のところはなんともいいがたいんですが……陳 佩芳選手は普段の試合では見られない多節鞭を武器にしてますからね。これは彼女が最も得意とする武術ですんで、やはり彼女に分があるんではないかと思いますがね、それと…」
解説者の趙が話を続けようとした瞬間、アナウンサーが驚きの声をあげた。
「おっーと、出ました! これは、意外や意外、どういったことでしょう!? 賭けのオッズが、ハムサップロウ選手のほうが若干、勝っていますね。えーと、ハムサップロウ選手が6で陳 佩芳選手が4ですね。趙さん、これは一体どういことでしょうか?」
軽快にしゃべる実況アナウンサーが早口で問いかける。
「うーん、そうですね…」
「あーっと、いきなり陳 佩芳の鉄の鞭がハムサップロウに炸裂したー! 胸に突き刺したーー !! これはもう開始早々で瞬殺かぁー!? 趙さん、これは、どう見ます?」
「そうですね、これは…」
解説者の趙が何かを言いかけたとき、再びアナウンサーが遮った。
「おっーと! ハムサップロウ選手、起き上がった!! いけない、結構、効いているのか!? 苦しそうに胸を押さえているぞ。趙さん、これはどう思われますか?」
「そうで…」
「あっ! これは、かなりの致命的なダメージを受けたのかー、ハムサップロウ選手の顔色がよくないぞー! この鉄の鞭は凄まじい破壊力だー!!」
「……」
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