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リングの上では、紫音がかなり苦しそうな顔を浮かべている。
(くそっ、油断してもうた。鞭の先を胸に当たるすれすれのところで掴んで止めたのに、先っちょから毒針を飛び出させるとは…)
「ふっ、どうだ! このカバキコマチグモの味は?」
この毒蜘蛛は、体長が2センチ程度と小さいが、その毒は毒ヘビやフグよりも強く、世界で6番目の順位がつけられている猛毒生物だ。
「くそっ、いきなり卑怯な手を使いやがって…」
「ほほぉ~、生死を賭けた闘いで卑怯も糞もないと思うがな。さあ、このまま激痛とともに、さっさとあの世に逝きな。わざわざマカオに来てまで死ににくるとは、とんだマヌケな奴もいるもんだ。まあ、もっとも、おまえはハムサップロウだもんな。ハッハハハ」
終始、高飛車な態度の陳 佩芳は、勝ち誇った笑い声をあげた。
(チッ、もう毒が体内にまわってきやがった……せやけど、初っぱなからあまりもの力の差を見せつけてしまったら、賭けのオッズが下がってしまうからと思ったんやけどな。でもこんなことになるんやったら、もっと早くケリをつけとくべきやった……しゃーない、アレを使うか。できることなら使いたくなかったんやが…)
そう考えた紫音はポケットから250mlのペットボトルを取りだした。中身は聖水。もっとも聖水といっても、歩亜糸と照良糸のオシッコだ。蜘蛛の妖しの聖女である彼女達は不思議な唄と踊りで病気や怪我を治すことができる。そして、その聖女達の尿は、もっとも毒に効く。その効果はブラックマンバの猛毒を浴びた三郎太で証明されている。
(これを毒針で刺された箇所に塗り込んで、残りを飲んだらええんやな。けど、ラノベとかの異世界もんの話ならここは普通にポーションとかやのに、あいつらの小便はちょっとキツいな…)
さすがの紫音もこれには戸惑いを覚えるが、背に腹はかえられぬと、思いきって少量の聖水を胸に塗り込み残りを飲み干すことに。
「プハッー、まずっ! オエッー、オエッー」
「無駄なことを、お茶でこの毒は薄まらんぞ。往生際の悪い奴だ」
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