鬼が出るか蛇が出るか

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「うわぁ~、女のオシッコだって、ほんと変態! ハムサップロウ(変態親父)、さっさと殺られてしまえー!」 「あの選手、ほんと気持ちわる~い。見てるだけだ吐き気がするわ──ハムサップロウ(変態男)、とっとと、くたばれー!!」 「ハムサップロウ、がんばれー!」 「いけー、ハムサップロウ! おまえの変態性をもっと見せてくれー!」  観客席にいるあちらこちらの女性達からは拒絶感を含むヤジが飛ばされ、男性陣からはおもしろがったヤジが飛ばされている。  リングの上では、紫音が右へ左へと暴食の女豹、陳 佩芳(チン ベイファン)から放たれた多節鞭(たせつべん)をかわし続けている。 (もう、そろそろ決着をつけるか。先っちょから飛び出す毒針にだけ気をつけたら、あとはなんのことはなさそうやな。よしっ!)  胸中で気合いを入れた紫音は、相手の攻撃速度を鈍くする水の結界を張る。次いで勢いよく飛んでくる鉄の鞭をガシッとつかむと、その勢いのまま手繰(たぐ)り寄せた。 「クッ……このイカれたハムサップロウ(変態男)めっ! しかし、あのカバキコマチグモの毒が効かないというのか……それに、私の打つ多節鞭(たせつべん)を2度も素手でつかむとは…」  そう陳 佩芳(チン ベイファン)が小声で苦言を漏らすと、今度は紫音に向かって猛スピードで駆けて行った。 「そいやー!」  女豹の口からとてつもない気合いが(ほとばし)る。紫音の3メートル手前まで来たかと思うと、陳 佩芳(チン ベイファン)が紫音の顔面に飛び蹴りを喰らわした。だが、難なく女豹の浮いた足をつかむ紫音。そのまま、地面に叩きつけた。 ── バンッ! ──  アナウンサーの声が流れだす。 「おーっと、これはハムサップロウ選手、初めて反撃にでたー! 陳 佩芳(チン ベイファン)選手の足をつかみ、そのまま地面に叩きつけたー! なんという怪力! とても人間技とはおもえません! ──ところで、解説者のおこりん坊の趙さんは、一身上の都合につき、おうちに帰ってしまいました~。ここからは、私1人でアナウンスと解説を行っていきま~す」  リング上に倒れた陳 佩芳(チン ベイファン)がゆっくりと立ち上がる。しかめた顔からは、焦りが滲みだしている。 「フッ、油断したわ、それじゃ、こんなのはどうかな!?」    陳 佩芳(チン ベイファン)が、そう言ったとたん、女豹のごとく紫音にタックルするように飛びかかる。  その拍子に紫音が陳 佩芳(チン ベイファン)の身体を力任せにつかむ。と、今度は腰の骨を折るがごとく腕に力を込めた。 「なに! うっ、このバカ力め! ウッ……」 「さあこのまま、肋骨を何本か折ったろうか!?」  陳 佩芳(チン ベイファン)は紫音に両腕ごと抱きつかれ、筋肉質な脚だけをバタつかせている。その刹那、バキッ、バキッと嫌な音がする。  骨が砕かれた訳ではない。胸に着けている鉄の鎧がきしみだしたのだ。 「ウッゥゥ……」 「佩芳(ベイファン)、頑張るのよ! あきらめちゃダメよ!」  突然、セコンドから心のこもった檄が飛んできた。どこかで聞き覚えのある声。すぐさま紫音は、声のする方に視線を向けた。 「マジか! 昨日のシェフやないか!!」  思わず声をあげた紫音。 「クッ……あ、あんた…わ、私のねぇーさんを知ってるの?」  とたん、紫音が自然と手の力を緩めた。だが、この機を逃さなかった陳 佩芳(チン ベイファン)は、すかさず紫音の腕からすり抜け距離をおいた。
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