戯れの神芝居

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 もちろん、目の前にいる中東系のディーラーには日本語は通じてはいない。一人の客が腹立ち紛れで(ののし)っているとしか思っていなのだろう。淡々と仕事こなすディーラーは、負けた客達に哀れんだ表情を取り繕った。そうして、学校のグラウンドを整備するトンボよりも小さな棒で、テーブル上に張られたチップを何のためらいもなく回収していく。  紫音は、残りのチップを握りしめ今までの敗けを取り戻そうと躍起なっていた。  そのような最中、先程の紫音の文句を聞いていた一人の女性が背後から声をかけてきた。 「あらっ、日本人の方ですか?」  風鈴の()が聴こえてくるような声音だった。その美しくも涼やかな音がする方へ振り向いた紫音。    と、そこには見目麗しい女がたたずんでいた。抜けるように白い肌、小顔なのに潤んだような大きな瞳、色香を感じる形のよい唇と、しゅっとした鼻、艶々とした黒い髪……はっと、するほどの美しさだった。 (ん!? マジか!! 絶世の美女やないか! これぞ東洋の神秘って感じやな…)  いつもなら、気持ちを切り替えてお茶でも誘うところなのだが、それが出来ない理由(わけ)が紫音にはあった。  照美や仲間達と一緒に京都の平穏を取り戻し、しいては日本の平和を取り戻した、あれから約七か月。
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