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ボールがウィールの数字の欄へとカチッ、カチッと音を立てて落ちだした。案の定、ディーラーが、さりげなくベルトのバックルを触りだす。
雪麗の大きな瞳が瞬時に鋭くなる。紫音も息はもちろん瞬きするのも忘れている。他のプレイヤー達も、このような大勝負を目の当たりにしてかなり緊迫していた。
ルーレットテーブルを囲んだ誰も彼もが息を呑んでいる。そんな皆の気持ちを知る由もなくボールが無情に、コトンと小さな音をたてて枠に収まった。そのとたん、ざわめきと共に驚きの声があがった。
「うおぉ─!!」「すごいぞ! スプリットベットで大金を当てたぞ!」「なんてことだ!」「やるな、若いの」「うわっ! ほらっ、見て見て、こんなことってあるのね」「配当金は、いくらになるの!? うらやましぃ~」
その場にいたプレイヤー達が目を皿にして思い思いの言葉をあげている。
そう、ボールが入ったのは紫音の読み通りレッド1のスポットだった。
皆が大いに感心しているなか、黒人ディーラーだけは、眉間にシワを寄せ天井に設置してある監視カメラに向かってバツの悪そうな顔を浮かべていた。
『雪麗、これは?』
紫音が念話で説明を求めた。
『妨害電波よ』
『雪麗の仲間か?』
『そうよ、後ろに立っている赤毛の娼婦。あっ、振り向かないで!』
後ろにいる娼婦を確認しようとする紫音を察し、すぐさま雪麗が止めに入った。
『あっ、そやな。怪しまれたらあかんしな』
その直後、黒人ディーラーがインカムで呼びよせた3人のスタッフらがこちらに向かってきた。高額なチップをワゴンカートに載せて運んできたのだ。おそらくガタイの良い後ろの2人は警備の者だろう。
カートの上にはゴールドチップ70枚とオレンジチップ90枚がチップケースに収まっている。気を利かせたカジノ側が、カラーアップしてきたようだ。カラーアップとは、額が小さなチップは大量に持ち運ぶのが困難なため、あらかじめ高額なチップにまとめて換金すること。これをすべて日本円で換算すると、約118,200,000円。
だが、高額なチップと一緒にスタッフの1人があるものを手にしていた。電波を発しているものを発見できる小型アンテナのような機械だ。おそらく、プレイヤーの不正の有無を確認しにきたのだろう。
できるだけ気づかれないように、1人のスタッフが小型アンテナのようなものを紫音と雪麗の身体に向ける。が、何も反応がないとわかると何事もなかったようにその場から立ち去った。
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