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まさかこんなことになるとは思いもしなかった黒人ディーラー。紫音の強運に感心する反面、どこか気まずそうな顔をしていた。というのも、後で雪麗に聞いた話だが、いくらリモコンの不具合だからといっても店に大損害を与えたディーラーは、お役御免になる可能性が高いとか。
「お客様、おめでとうございます。──どうぞ、お受け取りを」
黒人ディーラーが、思ってもしないことをぎこちない笑顔を浮かべて言った。紫音は軽く会釈をし渡されたチップをすべて受けとる。その傍らでは、カジノの礼儀作法をよく知る雪麗が、「ありがとう」と言ってディーラーにオレンジチップ1枚を手渡した。
「センキュー ソー マッチ マダム。このあとのゲームからはディーラーチェンジします。──それでは皆さま、グッドラック」
低い声に張りがなくなった黒人ディーラー。一礼してから奥へと下がっていった。
まだ歓声が湧き上がっている。そんな最中、間をあけずに次のディーラーが現れた。女だった。それも二十歳そこそこのグラマラスな美麗な女子。膝上のミニスカートの裾らへんの太ももに目がいく紫音。洒落たシャツの第3から第5ボタンが弾けそうになっている。顔も中東系の女性らしく目鼻立ちが整っており、彫りも深かった。
「いいねぇ」
自然と言葉を発する紫音。それを聞いた雪麗は、またしても紫音を諌めるようにして一瞥する。
『そんなに鼻の下を伸ばしてたら、ディーラーの思考を読み違えるわよ。これが最後の勝負になるんだから、気を引き締めてちょうだい』
『もしかして雪麗、俺に焼いてるのか?』
次の瞬間、雪麗は紫音の靴の指先辺りをおもいっきり、ピンヒールで踏みつけた。
「いったー!」
「あらぁ、ごめんなさい」『無駄口叩いてないで真剣にしなさい!』
謝りとは裏腹に雪麗の胸中はかなりピリピリしていた。
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