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「おー、怖っ」
紫音がつぶやいた。依然、雪麗は険しい顔を紫音に向けている。
だがそのようななか、突然、雪麗の仲間が合図を送ってきた。いくつかのシャンパンをトレーに載せたウェイトレスが近寄ってくる。そうして、シャンパンを雪麗の胸元の高さまで降ろした。
「いかがですか?」
「いえ、結構よ」
それを聞くなりウェイトレスが一瞬だが両目ギュッとを閉じた。次いで、雪麗が、後ろの赤毛の娼婦に視線を注ぐとイヤリングを2度、3度つけ直している姿が。彼女らのこの行動は即刻、中止の合図だった。
『紫音さん、予定変更よ。帰るわよ』
『えっ!? なんでや、もうあと1ゲームだけなんやろ』
『この女ディーラーの情報がまったくないのよ』
『そうなんか…』
もう少し目の前の見目麗しい女子とゲームを楽しみたかった紫音は左手でチップを持ち、右手は雪麗の腰にあて、名残惜しそうにテーブルを離れようとした。
そのような時、妙齢なディーラーが紫音に声をかけてきた。
「あらぁ~、お兄さん、もう帰っちゃうの? わたし、お兄さんと勝負するの楽しみにしてましたのよ」
さっきまでの紫音のプレイを見てきたような口ぶり。けれど言うまでもなく、美しい女性に声をかけられ無視する紫音ではなかった。
「きみの名前は?」
「私の名前は鈴玉です」
「で、鈴玉、楽しみにしてたってどういう意味や?」
「だって、さっき事務所から見てたんですもの。気っ風の良いお兄さん、メッチャわたしのタイプって思いながら……で、わたしの出番がまわってきたわけでしょ。だから、メッチャはりきって来たのに…。もう帰っちゃうんですね。なんか、鈴玉、テンションさがるぅ~」
瞳をうるうるさせた鈴玉は、思わせぶりな面持ちでモジモジしながら、つまらなそうに絨毯を軽く蹴ってみせた。
カジノのディーラーもサービス業のひとつなのに、なぜかため口で客と話すこの女性。実は、わざとカジノの運営側がお色気ムンムン作戦で送り込んだ女性だった。勝ち逃げは許さないと、あらゆる手段を使ってこようとしてきたのだ。
だが、そんなみえみえの作戦にまんまと嵌まる紫音では…
「じゃあ、鈴玉、ちょっと遊ぼうか?」
いや、すんなりと嵌まる紫音だった。
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