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「やったー! 入った、入ったぞ!!」「私も当てたわよ!」
ルーレットテーブルの周りにいる2人の客が喜びの声をあげている。
ボールが落ちたブラック2のスポットに緑のチップ1枚(約3万円)を賭けていた男性がいた。その他にも、黒と赤のイーブンマネー・ベット(二者択一)で当てたご婦人もいた。教育ママのような眼鏡をかけたこの婦人、かなり張り込んでかゴールドチップを2枚(1枚/約150万円)も賭けていた。
『そういうことね。なかなかの演出じゃない』
と、雪麗が、ぼそっとつぶやいた。
このディーラーが、指先で高速回転させながら投げたボールは一度スポットに入ったかとおもうと、スポットの間仕切りにあたり独楽のように弾いたのだ。
『せやな、わざとあの客達に当てさせたみたいな感じやな。挨拶代わりの御祝儀っていうわけか…。でも、どうやってやったんや? プレイヤーは、ディーラーがボールを投げ入れてからチップを置くのに…』
『そうね、どうもこれには裏がありそうね。──それと、あのディーラーなかなかやるわよ』
『…? どういうことや?』
『初めに入ったかと思った黒の20にもシングル・ベットで賭けてたいかつい男がいたでしょ。彼、かなり負けず嫌いみたいよ』
そう言った雪麗の視線の先には、苦虫を100匹ほど噛み潰したような顔をした男が拳を握りしめていた。
『あの男、かなり熱くなりやすいタイプみたいだわ。それにさっき当てた2人もおそらく素人、ギャンブルにはあまり慣れてないようだわ』
『なるほど、客を一人一人、瞬時に見定めてたんか。まぁ、これも客を喜ばすひとつのパフォーマンスなんやろうな』
『そうよ、そして最後にはお尻の毛までむしりとるつもりみたいね』
『若いのに先行き恐ろしい女やな…』
『あとひとつ、ボールを弾かせたのも意味があるようね』
『ん? あっそうかっ、さっきのイカサマや!! 磁力を使って不自然なボールの動きをカモフラージュするためかっ!』
『そう、おそらくね』
「プレイス ユア ベット《さあ、レイアウト上にチップを置いてください》」
手早くチップの回収と、当てたプレイヤーに配当を支払ったディーラーが、先程と同じように指先で高速回転させたボールをウィールに投げ入れ声をあげた。
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