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「紫音さん、賭けないの?」
「今回はパスや」
それを耳にした妙齢なディーラーの鈴玉は艶のある仕草を紫音に向けた。
「あらぁ~、お兄さんつれないわね~」
「ちょっと、休憩や。けど、鈴玉、なかなかの腕前やな」
それを聞き、うふふと照れ笑いをした鈴玉は、真剣な顔に変わり「ノー モア ベット」と言って、賭けの受付を終わらせた。
ボールの行方を追う紫音と雪麗。またもや、ボールが間仕切りに当たり弾いた。落ちた先はレッド34のスポット。すると、さっきも当てた婦人の歓喜の声が響き渡った。
「わあー! うそっ、また当たった! 信じられないわ」
と言って、隣の見知らぬ客と大はしゃぎするこのご婦人。今度は、ハイ(19~36)の方のイーブンマネー・ベット(二者択一)にゴールドチップ4枚(1枚/約150万円)を賭けていた。配当金は2倍だ。
その光景を見ていた紫音は、眉をひそめ念で雪麗に伝えた。
『雪麗、この客と、さっきシングルベットで当てた男はさくらや』
『…素人じゃなかったのね』
『いや、おそらく2人ともギャンブルは素人やろ。でも、素人客を装った演技は玄人や』
『そう、思考を読んだのね。じゃあさっきのいかつい男もそうなの?』
『いや、あの男はたまたまあのスポットに賭けてただけやったみたいや。でも、これでさっきの謎が解けた。あらかじめ、この客らと申し合わせとったんや』
『なるほどね。だけど、本当にこの鈴玉とかいうディーラーが狙った通りのスポットに入れたのかしら?』
『どういう意味や?』
『だってそうでしょ。磁力の可能性もあるじゃない。もしそうなら、この女が適当にボールを投げ入れてから、事務所にいるスタッフが遠隔で操作してるってこともありえるでしょ』
『確かにな、けど、もしそうでもこのディーラーが客らと打ち合わせしたスポットにボールが落ちるわけやろ…だから、そこに賭けたらええんとちゃうか?』
『それは、ダメよ。いくら彼女らが打ち合わせしてても適当に投げていたら、紫音さんが同じ数字に賭けたとたんに奥の事務所にいるスタッフは磁力を発動させなくてよ。そうなったら、どこにボールが落ちるかわからないでしょ』
『ああ、そうやったな』
『だから、磁力か、このディーラーが狙って入れたのかをはっきりさせないと、このゲーム、勝ち目はないわよ』
『そっか、それなら試しめみよう。このさくら客と同じところに大金を賭けてみようか』
『だから、さっき言ったでしょ!』
『いやちゃうんや、もし、奥の奴らが遠隔で磁気を発生させたらわかるように、ちゃんと見とったらええんや』
『…磁気が出てるかどうかなんてわかるの?』
『ああ、多分、真面目にしたらわかると思う』
『なら、初めっから真面目にしときなさいよ!』
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