戯れの神芝居

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 鬼隈達の活躍が認められ、結界内に入ることを許された数多くの蛇族や鬼族、妖し蜘蛛族達。その中でも人の姿に化けれる妖しだけは新たな戸籍を作ることができ、人間社会で堂々と働くことを許された。  そのような(あやか)しの仕事を世話したのもあって、紫音の運営する風俗店は繁忙期を迎えていた。もちろんそれには座敷童や白蛇の白麟(びゃくりん)の不思議な力のおかげもあった。  全国に出店したデリヘル店や雄琴のソープランド、はたまた鈴鹿御前の生まれ変わりである麗子が勤める祇園のクラブパトロナージュにも連日、客足が途絶えなかった。  では、紫音が大金持ちになったかというと、それにも少し説明を加えなければならない。  紫音の収入は、なぜかすべて婚約者である照美が管理することになり、店のお金を自由には使えないようになっていた。というのも、紫音にお金を持たすと、(もう)け使いをするのが火を見るより明らかだから。どうせろくなことには使わないと、照美が龍己や七海に釘を刺し、きつく管理をさせていたのだ。  従って、紫音の念願だった風俗王になる夢は叶えたものの、1日のこづかいは2千円。それで毎日をやりくりしなければならなかった。  しかし今回、大陸に行くことが決まり、これは絶好の機会だと胸を踊らせた紫音。ここぞとばかりに照美に知られない大金をカジノでゲットしたいという狙いがあった。  紫音は龍己と七海を(なか)ば強引に納得させ、倍にして返すという約束で店の金庫から金を持ち出したのだ。  とはいえ、紫音がこの国に来た本当の理由は、結界石から逃げだした九尾の妖狐玉藻前(たまものまえ)が大陸に渡ったという情報をつかんだのと、大蛇(オロチ)率いる蛇族と鬼族の壊滅を図ろうとすることだった。さらに、自身のルーツを探り、女の恨みによって大鬼に変身する呪いの謎を解き明かすことも。この国に来たのはそのためだ。がしかし、今回はかなりの危険が伴う仕事。それにも増してアウェイだ。それゆえに、照美には日本にいてもらうことにした。ただでさえ贖罪(しょくざい)を受けやすい照美を危険に晒す訳にはいかなかった。というのは建前で、鬼の居ぬ間に洗濯、否、神の居ぬ間に盛大な火遊びといったところだろうか。そんな訳で、先ずは即刻、軍資金を稼がなければならなかったのだ。  このとき紫音は、「日本人の方ですか?」と、美しい音色で訊ねてきた絶世の美女に見惚れながら返事をする。 「はい。そうですが…」 「あなたが、さっき言っていた通り、ディーラーの狙ったポイントを読めるなら、このカジノじゃなくて他のカジノでプレイすることをおすすめするわ」
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