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にぎやかさが増す中、「ノー モア ベッド」と、女ディーラー鈴玉が弾んだ声を張り上げた。
ウィールの縁を吸い付くようにまわり続けている白いボール。まだ落ちそうにないようだ。デヴュー戦だけあって気合いが入っている鈴玉は、より力強くボールを投げ入れていた。
十分に遠心力を得た小さなボールに皆の視線が一身に集まっている。そんななか紫音が雪麗に念を用いて話しかけた。
『雪麗、どのタイミングで停電を起こすんや?』
『ボールが落ちて、奴等が磁力を発生させる前に電源を切る手筈よ。仲間が監視カメラをハッキングしてこのルーレットを見ているから』
ちょうどそのとき、ボールが転がり落ちてきた。そして次の瞬間、バンッと音がするなり、すべての照明が切れ部屋中が真っ暗になった。
だが、暗くなったのも束の間、瞬時に電源が回復し普段通りの明かりが灯された。
「えっ! 嘘でしょ!」
思わず雪麗が声をあげた。
気になるボールは、無情にも磁力に引っ張られレッド3のスポットに転がり込んだ。
チッ、と舌を鳴らした紫音は冷静に雪麗に問いかけた。
『一体、何が起こったんや?』
『わからないわ。──でも、おそらく電源が落ちたと同時ぐらいに非常用電源がついたんだわ』
『非常用電源が設置されてるんを知らんかったんか?』
『1カ月前まではこんな設備はなかったのよ。きっと最近つけたんだわ』
『そっか…』と言って、下唇を出して腕組みする紫音。それを目にした雪麗は申し訳なさそうな顔を浮かべた。
『紫音さん、ごめんなさい。私たちの調査不足だったわ』
落胆の色を隠せない雪麗が、そう心の内で話すと少し間をおいた。そうして覚悟を決めた面持ちに変わり念での話を続けた。
『紫音さんの負けたお金に見合うかどうかわからないけど、一晩でも二晩でも付き合うわ。もう、私達の完敗よ』
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