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「では、始めます」
ディーラーの鈴玉が、そう言ってからウィールを綺麗な指先でグイッと押すようにして回しだす。そして例のごとく指先でボールを高速回転させると、手首のスナップを利かしてヒョイと回転盤に投げ入れた。
「プレイス ユア ベット!《さあ、レイアウト上にチップを置いてください》」
(紫音さん、次はどこに賭けるんだろ? この女の思考を読んでも奥にいるスタッフが磁力を作動させたら絶対に勝てることないんだけどな…、一体この人は、なにを考えてるの?)
そんなことを雪麗が考えていたら、紫音の声が自然と耳の奥に入ってきた。
『今回はディーラーの思考は読まへん。まあ、雪麗、 ゆっくり見物しとけ』
雪麗がギョッと目を大きく見開いた。というのも、自分の心の内がすべて筒抜けだったから。今更ながら、紫音の思考を読む力に驚いた雪麗。
(紫音さんと念で会話をしているときだけ読まれていると思っていたのに、なにもかも私の思考が読まれていたの! ということは、私の持っている極秘情報も駄々漏れ…)
またしても、雪麗の思考を読んだ紫音は、ふっと鼻息を漏らし小さく口の端を上げた。
そうして紫音は、『00』のスポットにすべてのチップを置いた。ストレートアップ(別名シングルナンバー)の賭け方、一点賭け。配当は36倍。ゴールドチップ5枚とオレンジチップを3枚。あり金をすべて、日本円で約800万円分のチップを惜しみ無く賭けたのだ。
それを静観していた雪麗は心配そうな面持ちを浮かべ、紫音を上目遣いで見つめた。
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