戯れの神芝居

4/12
63人が本棚に入れています
本棚に追加
/187ページ
「へっ? どういうことですか?」 「ここのカジノはクリーン過ぎるのよ。一昔前と違ってイカサマができないようになってるの」  高級そうな黒のドレスを(まと)った女は、艶のある髪をかきあげながら美麗な表情を紫音に向けた。黒百合のような凛とした佇まい。白い肌が余計に際立って見える。 (うわぁ~、マジでめっちゃ綺麗な女やな。日本人とちゃうみたいやけど、日本語が上手い。でも、何者なんやろ?) 「そうなんですね。でもなんで俺にそんなことを教えてくれるんですか?」 「フッフフ。あなたが素人だから。何もわかってないでしょ、このマカオを。──それに、さっきあなたが言ってた言葉に興味を惹かれたのよ」 「えっ、俺、なんか言ったっけ?」 「ディーラーに怒ってたでしょ。お前が狙った数字に入らないって」 「あぁ、確かに。でもイカサマができひんのになんでこのディーラーは頭に数字を描いてたんやろ?」 「ふっ、やっぱりあなた、人心を読めるようね。──いいわ教えてあげる。それはね、おそらくゲーム本番でも練習をしてるのよ。今はルーレットのウィール(ホイール)の精度も上がってるし、ボールが入るスポットとスポットの間仕切りが以前とは異なってかなり低くなってるの。だから、ほとんどのディーラーはポイントが狙えないようにできてるの。でもね、この最新のルーレットでディーラーがポイントを狙うことができればどうなると思う?」 「そらぁー、店から重宝がられるんとちゃいます?」 「こんな大きなホテルのカジノ側は健全化を図ってるから、そんなイカサマディーラーはいらないのよ。それよりもカジノのお偉いさんは、この最新のルーレットでは絶対にイカサマができないと思っているでしょ。そこがなのよ。だから、もしもディーラーが狙ったポイントに落とすことができたら、知り合いを客に招き入れて大儲けできるでしょ……ダメ元なんでしょうけど彼らも必死なのよ」 「なるほど、そういうことやったんか。だから、ディーラーが思ってた数字に入れへんかったって訳か。納得」 「ウフフ。もしあなたにその気があるなら、海千山千だらけのイカサマカジノに案内してあげてもよくってよ」
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!