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もうとうに、ゆらゆらと揺れ動く陽炎を纏ったような夕陽は地平線の彼方へと沈んでいた。かわって、闇にすべてを支配させまいと、月にバトンが渡された。
さすがに、マカオから見る月はウサギが餅をついていない。なぜか、蟹のようにも見えた。
紫音達を乗せたタクシーはポルトガル風の石畳が敷き詰められた通りを広場に向かって走っていく。その両脇には、すでにライトアップされたパステルカラーの建造物が建ち並び、 広場の入り口には懐古的なおもむきのある郵便局や教会等が目を喜ばせてくれた。また、広場の中央には大きな地球儀をモチーフにした噴水があり、そこでは旅行客が写真を撮り合い、地元の人々が憩い場として寄り集まっている。
(まあ、ちょっとぐらいやったらええか。どうせ鬼隈さんらが戻ってくるんは早くても明後日やって言うてたしな)
そんなことを考えていたら、雪麗が艶のある声で話しかけてきた。
「紫音さん、マカオには観光でいらしたの?」
「あぁ、まあ、そんなとこかな」
「そう、じゃああまり長居はできないわね。──紫音さん、唐突で失礼なんですが今、手持ちはいかほどお持ちかしら?」
「えっ!? 手持ちですか?」
「えぇ、一応、それを聞いておかないと、今から行くカジノでの攻め方が変わってきますから…」
「あぁ、そういうことな。さっきのカジノで二百万を擦ってもうたし、残りは日本円で一千八百万円ってとこかな」
「そう、それならVIP席でも打てるわね」
「ん? VIP席?」
「そうよ、簡単に言えば一般人と金持ちが遊べるスペースが別れているの。それに、一般のルーレットのディーラーは未熟なのが多いのよ。だから、紫音さんみたいな人なら手馴れたディーラーの方が当たる確率が高くなるでしょ」
「なるほど、手馴れた奴の方がちゃんと狙ったところへ落としてくれるっていうことか。せやけど、俺にそんなこと教えて雪麗に何の得があるんや? ただの酔狂な人間とは思えへんしな」
「それは後で話そうと思ってたけど…いいわ。じゃあストレートに言うわね。今からあなたが儲けるお金の3分の1を私にもらえないかしら? もちろん、勝てる為の作戦は仕込んであるのよ。あなたと私が力を合わせれば必ず勝てるわ。私の言うとおりにしてもらえたらだけどね」
「なるほど、詐欺ではなさそうやな」
紫音は質問するタイミングで彼女の思考を読みとっていた。嘘は無いと判断したのだ。
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