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それを聞き、この上なく紫音に興味を抱いた雪麗は感心した面持ちで「ふっ」と吐息をもらす。紫音もそれに呼応し頬を綻ばせた。
「人の心が、すべて丸見えなのですね。──紫音さん、他にどんな力がありますの?」
その問いに紫音は少し考えた素振りを見せ、雪麗の柔らかそうな胸を厭らしい眼で舐めまわすようにして見つめた。
「う~ん、せやな、心もやけど、服も透けて見える」
「妈呀 !! 嘘でしょ!?」
咄嗟に胸を隠す雪麗。体をよじらせ紫音から距離をおいた。
「うそうそ、嘘や、そんなことできる訳ないやろ。フッフフ、でも、意外と初なんやな」
「ふぅ~、くだらない嘘はつかないでください」
◇ ◇ ◇ ◇
一方、ウイグラルにいる鬼隈と竜一は、ある施設のなかで強烈な戸惑いを覚えようとしていた。
「さあ、どうぞ、どうぞ。先ずは、こちらでとても面白い余興をご覧に入れましょう。イヒッヒヒヒ」
上の階からガラス越しに見下ろす鬼隈達。視線の先には、一人の若い女性がパンツ一枚の状態で広場の真ん中に立ち竦んでいた。
遠目からだが、腕組みをしているように胸を隠し、かなり怯えているように見える。
ここは、ウイグラル地区の強制収容所。オロチの思想に反対する人々を強制的に教育し直す施設だ。
約8年前から、大陸の蛇族と鬼族は配下の人間達を操り、この地域に住んでいた民族の浄化にあたっていた。
武力をもってこの地に侵入し、暴力によって制圧する。言語道断で土地や財物等を奪い取っていく。その上で、ウイグラルの通貨や言語を廃止しオロチの思想を植え付けようとしていた。さらにさらに、この罪もなき人々を強制的に働かせていた。それも一切、賃金を与えずに世界各国にある企業の工場を誘致して、その仕事をさせていたのだ。その上、数々の武器も作らせていた。
ある縫製工場では、女性達が朝から晩まで労働させられ、車製造工場では昼夜を問わず過酷な肉体労働を強いられていた。またある武器製造工場では危険な生物兵器やウランなどの核物質も取り扱わせていた。
そして、それに反対する人々をこの施設に集め強制的にオロチの思想を叩き込んでいた。だが、それでも言うことを聞かない人間は危険分子とみなされ、きつい罰を与えられる。その一人が、今、広場に立たされている若い女性だ。
この女性、一年前に教師だった父親を人権運動を主導した罪で処刑され、母親はこの国の政権を握る公参党の幹部の臓器提供者としてどこかへ連れ去られていた。強い意思をもっているこの女性はオロジャッジグループが後押しする政権のやり方に猛烈な私怨を抱いていた。地下に潜り仲間達と反政府組織を立ち上げテロ行為を繰り返す日々を送っていたのだ。が、そんなある日、一人の仲間の裏切りよって逮捕され、この収容施設に捕らえられていた。幸い、実行犯ではなく事務方だったため処刑は免れたようだ。
しかし、それが逆に不幸の始まりだったかもしれない。今から起こることを考えると…
「不要过来《来ないで》!!」
闇の中から、あまたの男達が現れた。あたかも狼の群れが小鹿を取り囲むようにじわじわと距離を詰めていく。この男達も彼女と同じ民族。何年も女っ気の無い汗臭い現場で強制労働をさせられている男達。今日は普段の労働のご褒美にと、従順に働いている者達だけがこの広場に集められていた。
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