戯れの神芝居

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 ここは長方形の町並みの旧市街。煌々(こうこう)と輝く街明かりのせいで、本来、夜空に浮かんでいる星々が見えなくなっている。それはまるで、煩悩によって目を曇らせた者達が作り出す灯火(ともしび)のよう。  夜の繁華街特有のどぶ臭さが漂っている。その臭気と酒の匂い、それと女のきつい香水が混じりあい一種特殊な鼻を塞ぎたくなる臭味が不快感をつのらせる。  肌の露出が多い安物のドレスを纏った娼婦達。あちらこちらで男達を魅惑の世界へと誘いだそうと声をかけている。そんな売春宿と酒場が混在する通りに紫音達が足を踏み入れた。 「それじゃ、紫音さん、さっき言った通りにお願いします」 「まあ、何事もイレギュラーってもんがあるから、すべて予定通りにはいかへんやろうな」 「それでも、ここからは(わたくし)の言うことに従ってもらいます」  それを聞き浮かない顔を浮かべる紫音。次の刹那、はっと思いついたことを口にだす。 「うーん、なんか指示に従うだけやったら、おもろないしな。──せやっ! じゃあ、こうせーへんか? 俺がほんまに勝ったら三分の一やのうて半分やる。だから雪麗(シュェリー)、俺と一晩つき合え」 「それは、ノーよ! アブソリュートリー ヘイティッ!」  キッパリと断った雪麗(シュェリー)は、あきれ顔で目的地であるカジノ店の前で足を止めた。一際目立つ、重厚そうな白いレンガ造りの建物の前では、屈強な男達が警備のため辺りを見渡している。 「なんや、それやったら今回のこの話はなかったことにしてくれるか。俺は帰るし」 「なにを今更! ……なら、このまま負けたままでも良くって?」 「うん、別にかまへんねん。ホテルのカジノに帰って、ポーカーかブラックジャックで勝負するし」  確かに人心を読めるならそのゲームでも勝てるだろう。そう思った雪麗(シュェリー)は困惑しつつもあっさりと折れた。 「……わ、わかったわ。私の負けよ」  いつものごとく悪い虫が走り出した。照美という婚約者がありながら……まあ、タイトル通り精進する覚悟なんてさらさらないのだから、今更何を言っても始まらないのだが…  数ヵ月前、紫音と照美が婚約したのは少々、複雑な経緯(いきさつ)があった。
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