戯れの神芝居

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戯れの神芝居

 雲がもくもく湧いている。すべてを溶かしそうな()れた熱気。背丈よりも高くなった夏草が立ち枯れている。  無毛雲(むもううん)が乾いた水墨画のように銀灰色(ぎんかいしょく)に焼け、水気ひとつない大地には、真夏の陽光が容赦なく浴びせられている。  ユーラシア大陸の南東部、香港に隣接するマカオの中心部となるエリア。そこには現代でも植民地時代の歴史的な建造物が多く残されていた。東洋と西洋の文化が交わったノスタルジックな雰囲気が異国情緒を漂わしている。  アジア最大級の一大エンターテイメントシティ。どこそれの時代様式や建築様式だとかと一言では言い表せないほど、個性的で優雅なホテルが立ち並んでいる。  その中でも、一際目立つホテルがあった。客室やサービス、料理など全てのカテゴリーにおいて5つ星に選ばれた『マジョスティックホテル ザ・マカオ』だ。 レイクビューから見る景色はマカオのシンボル、マカオタワーが存在感を表しおり、シティビューからは街のイルミネーションが見渡せ、ベイビューからは日の出をバックに佇む美しい観音像が眺められる。どれもこれもがマカオを象徴する景色だ。  このホテル、ギャンブルはもちろんのこと、プールサイドではカクテルを片手にくつろいだり、スパで 1 日中過ごせたり、クラブで気ままに踊ったり、アロマテラピーやヨガなども楽しめる。ホテル内のシアターでは国際的なスターによる華やかなショーやコンサートが繰り広げられている。ホテルから 一歩も出なくても退屈をさせないテーマパークのように客をもてなしてくれている。  カジノスペースには、幾つものきらびやかなシャンデリアが吊るされている。広いフロアには、ソファーやテーブル、椅子などがセンスよく配置されている。その家具には、べっ甲や貴金属、象牙などによる象嵌細工やベルベットの布張りなど、豪華な素材をふんだんに用いられている。  カジノを囲むようにして赤レンガと白い切石(コーナーストーン)を鎖状に縦に積んだツートンカラーの内壁は、長きに渡り西洋と東洋がカルチャーミックスされた何とも言えない(おもむ)きがある。  澄んだ青空のように明るい天井には石膏の彫刻が施されいる。翼が生えた幼気な天使達が、真っ白の雲を楽しげに飛び跳ねているかのよう。  カジノフロアを見渡すとバカラやブラックジャック、クラップスの高級そうな扇型や楕円形のテーブルと、最新のスロットマシンが延々と並んでいる。  この豪華絢爛(けんらん)なホテルにあるカジノの一角。ルーレットのまわりでは他の客達と一緒に正装した背の高い端麗な男が目を血走らせ、どっぷりとギャンブルに没頭している。その男、日本から来た紫音だった。  今しがた一勝負終わった紫音は、ルーレットにボールを投げ入れるディーラーを睨みつけながら、文句を垂れていた。 「おい、にぃーちゃん! おまえ、かなり下手(へた)っぴやろ。さっきから、おまえが狙ってた数字と全然ちゃうやんけ! このボケナスがっ! ──くっそー! もうこれで、2百万円もつぎこんでしもーたがな」  すでに、なんの詠唱も唱えずに他者の思考を読み取ることを習得していた紫音だから言えることだった。
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