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新しい年が明けた。
お正月気分もそこそこに、私立高校の受験が始まった。私は県立組だから、ラストスパートまでにはまだ時間がある。同じような境遇の優奈たちと下校の途中、お菓子屋さんのディスプレイに皆が足を止めた。
「バレンタインかあ…」
誰かが呟いた。
受験生にうつつを抜かしている暇はないけど、女の子としてはやっぱり気になるイベントだ。
「あたし、藤原くんにあげようかなと思ってるんだ」
菜実が言い出すと愛も手を挙げた。
「あたしもー! 中学最後の思い出じゃないけど」
「じゃあ、一緒に渡そうよ。志桜里は?」
「え?」
「席近いし、仲良さそうじゃん」
憧れている気持ちはあるけど、何だか私だけが舞い上がってるみたいで。
彼はそんな雰囲気じゃないんだよね。
「どうしよう…。わかんないや」
「やだ、真面目に考えないでよ。義理でもいいじゃん」
「そっか…」
「ちょっと見てく?」
「優奈は彼氏にあげればいいから気楽だね」
「それはそれで気を遣うんだってば」
私たちは少しテンションを上げながら、お店に入っていった。
帰宅すると、綺麗にラッピングしてもらった包みを机の上に置いた。
勢いで買ってしまったけど
どうやって渡そう…
菜実たちは放課後に手渡すって言ってたけど、たとえ皆と一緒でも、私は学校でなんて恥ずかしすぎる。
下校の途中か
でも 家まで行ったら迷惑だよね
やっぱり二人と一緒に…
悩んでいるうちにあっという間にバレンタイン当日になった。金曜日の朝、鞄の奥に紙袋ごとしのばせて家を出た。
空も吐く息も白くて、空気は鼻の奥がつんと痛くなるほどに冷たい。
「今日は雪だね」
私は独り呟いて歩きだした。
教室に入ると、菜実が私に目配せする。
私も苦笑いで応じた。
決行は午後だ。
今から緊張しても仕方ないけど、今日は上の空で何も手につかなさそうだった。
お昼休みに母からメッセージが来た。
『お祖母ちゃんのお薬頼んであるんだけど、学校の帰りに貰ってきてくれない? 藤原くんのところ』
何てタイミング
『わかった』
返事をしてほっと息をついてると、優奈が私の席に近づいてきた。
「彼、早退するって。熱が出たみたい」
「…そう」
「あの二人は追っかけていったよ」
「お祖母ちゃんのお薬頼まれちゃった。帰りに藤原くんちに寄ってきてって」
それを聞くと、優奈は目を輝かせた。
「おっ。チャンス到来!」
「わかんないよ、渡せるかなんて。具合悪いならなおさら」
「頑張ってきなよ」
優奈は私に喝を入れるように背中をばしんと叩いた。
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