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ケン
もうじき2年が経って、ケンが帰ってくる。
シオは家の近くの公立高校に進学していた。ケンには勿論そのことは伝えてある。
ケンは引っ越したばかりの時は言葉の壁で大分苦労をしたらしいが、やはり住んでいると言語の習得も早いらしく、半年もするとあまり困らなくなったと言う。
シオのいる公立高校への編入ができる様、勉強にもきちんと力を入れていたし、高校でも軽音楽部に入ったシオと同じ活動が出来るように、ギターも頑張って練習していた。
そんな折に、ウルギーの隣の国で内戦が始まった。それはまたたくまにウルギーも巻き込んでの戦闘になっていった。
日本大使館は日本人を即刻避難させるべく動いてはいたが、メジャーな国ではない上に、もっと、日本人が沢山いる国が近くにもあって、そちらも内戦に巻き込まれていたので、どうしてもウルギーへの対応が遅れがちになった。
既に会社が機能する状態ではなくなり、海外への連絡ができないように電波の規制が引かれ、日本への連絡手段もなくなってしまった。
ケンとシオは急に連絡が取れなくなってしまった。
運悪く、中川家が住んでいる集合住宅に誤って相手国からの攻撃が命中してしまった。ケンは大けがをしてそこからの意識がなくなった。
ケンが次に気が付いたのはウルギーの外の国の病院で、そこは内戦にも巻き込まれずに安全な場所だった。
ケンは自分が何故病院に収容されているのかがわからなかった。記憶喪失になってしまったのだ。
ケンの両親はウルギーの集合住宅への爆発により亡くなっていた。ケンの身分を証明するものも爆撃により無くなってしまっていたため、病院側もケンの扱いに困った。
しかし、まだ年若く、自分たちの土地の言葉を話すものの、異国の人間であることは見た目ではっきりしていた。
アラブの近くとはいえ、ウルギーの辺りの民族は大抵が淡い茶色の髪をして、眼も日本人よりは薄い茶色の目をしていた。
ケンは病院の好意により、下働きをすることで少額ではあるが賃金を貰え、病院の寮で寝泊まりできることになった。
たまたま寮に置いてあったギターを見ると、練習した覚えもないのに上手に弾くことができた。
ギターを弾くと、なにか懐かしいような、切ないような気持ちになって、忘れてしまった自分の事を少し思い出せそうな気持になるのだった。
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