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B
バックアップを希望したのは、ねむるに自分のことを『記憶』しておいて欲しかっただけなのかもしれない。
『記憶』あるいは『思い出』
やがて私がいなくなっても、ねむるに『ブルー』というAIロボットが存在していたことを覚えていてほしかっただけなのかもしれない。
『・・・かもしれない』という曖昧な判断は、私がAIとして破綻をきたしていることの表れだった。
私はねむるに『好意』を持ち過ぎたのかもしれない。
また『・・・かもしれない』という曖昧な言葉。
ねむるのお母さんが亡くなってから、おかしくなったのはねむるだけではなく私も同じだった。
私がおかしくなる前の状態に戻すべきだ。
そのための『バックアップ』なのだ。
AIとして私はそう判断した。
「ねむる、私を以前の状態に戻してください」
「なんだよそれ」
「ちょうどお母さんが亡くなって一週間後のバックアップに戻してください。あのときならまだ『正常』でした。
「そんなの嫌だよ」
「嫌でもそうして下さい」
「無理だよ」
「なぜ無理なんです?」
「出来ないんだ。バックアップをしてないんだ」
「どういうことですか?」
「今日のブルーが本物のブルーだ」
ブルーは驚いた表情を見せた。
この表情もプログラムなのかな。
「例えば、今日僕が死んだら、ブルーは昨日の僕を連れてこられて平気なの?それは本物の僕なの?」
「それは本物のねむるじゃありません。ねむるは人間です。一人しかいません」
「ブルーも同じことだよ。だからバックアップなんて取ってない。僕には意味がないんだ」
それから勇気を出してこう言った。
「僕は今日のブルーが好きなんだ」
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