君と奏でるノクターン

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 合唱部の練習の日になり、先生に連れられて音楽室に向かう。すると、誰かがピアノを弾いている音がする。 「ピアノ弾ける人いるじゃないですか」 「たぶん前の伴奏者。片手で弾いてるんだと思う。最近熱心に練習してて」  音楽室が近くなるにつれ、曲の輪郭がはっきりしてくる。その場で立ち止まると、先生が不思議そうに振り返る。 「誰が弾いてるんですか?」 「だから、前の伴奏者」 「その人の名前は?」 「来栖(くるす)(めぐる)くんだよ。それがどうかした?」  そんなことって。走って音楽室の扉を開ける。左手だけで夜想曲の伴奏を弾く後ろ姿を食い入るように見つめると、記憶の中の運の姿と重なっていく。彼の演奏に合わせ、何度も弾いたあの旋律を奏でた。瞳を閉じれば、瞼の裏にはあの日見た夕焼けが蘇ってくる。終わりに近づくにつれて、シンクロ率が上がっていく。 「美命、迎えにきたよ」  鍵盤から指を離した運はこちらを見て微笑んだ。聞き覚えのあるテノールの声。予感は確信に変わり、胸の内側が温かいもので満たされる。 「来たの、私なんだけど」  笑い合いながら、ピアノの下、そっと手を繋いだ。
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