君と奏でるノクターン

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 私、今野(こんの)美命(みこと)が通う高校には、朔の日の伝説というものがある。  朔の日――新月の日の夕方に旧校舎に残っていると行方不明になる。  そんな噂があるのだ。噂の真偽は明らかではないけれど、進んで立ち入る生徒はあまりいない。  最近はもうひとつ噂が増えたと話題になっていて、ますます生徒たちは寄り付かなくなった。  放課後、誰もいないはずの旧校舎からピアノを演奏する音が聴こえる。  この噂は、一部間違っていて、一部正しい。誰もいないはずの旧校舎には私が忍び込んでいるだけで、ピアノを弾いているのも私。だから何も怖いことはない。朔の日には早く帰ればいいだけ。  お昼休みに入るなり、旧校舎に逃げ込む。冷房はないけれど、立地の関係か意外と涼しい。汗ばんだ肌をそよそよと風が撫で、心地よい。旧校舎は良い隠れ家になっている。  持ってきたサンドイッチを齧っていると、ぱさりと何かが落ちる音がした気がして、教室内を見回す。後方のロッカーの前に本のようなものが落ちていた。かつてこの教室を使っていた生徒のものだろうか。ぱらぱらとめくっていくと、日記のようなものだとわかる。書き込まれている最後のページは奇しくも今日と同じ日付だった。悪いと思いつつも中を読んでしまう。
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