君と奏でるノクターン

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 教室内を見回して、どこかに身を隠せないかと思案する。ロッカーの横に設置された掃除用具入れをそっと開ける。中には箒やバケツが入っていて、どかさないと入れなさそうだ。  先生たちの声と足音が少しずつ近づいてくる。ここは一番奥の部屋だから、まだ少しは猶予はあるはず。箒の位置を調整してなんとか入り込めないかと試みる。けれど、長い箒がどうしても斜めじゃないと収まらない。焦りから額にじんわりと汗をかく。 「こっち」  誰かに話しかけられたような気がして振り向く。すると、教室の前方にある棚の扉が開け放たれている。中にはあまり物はなく、頑張れば入れそうな気がする。小さく体を丸めて入り込んだ。扉を閉めると真っ暗で少し怖い。目を閉じて、時間が経つのを待つ。  しばらくすると教室の扉が開かれた音がした。 「誰もいないですね」  先生の声がする。教室を歩き回る音もしてきた。見つかりませんようにと祈る。やがて足音は遠ざかっていき、気配がしなくなった。握りしめていたスマートフォンの画面を確認する。四時まではまだ五分ほどある。  先生たちは行ったみたいだし、と扉を開けようと押してみるが、開かない。途端にパニックになって、扉をがたがたと揺する。それでも開きそうにない。酸素が薄くなってきたのか、意識が朦朧としてきた。このまま誰にも見つけてもらえないまま、私はここで死んでしまうのかもしれない。 「助けて」  小さな呟きは暗闇に吸い込まれていくよう。先生でもいいから、戻ってきて。薄れゆく意識の中、誰かの足音が近づいてくるのを聞いた。
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