君と奏でるノクターン

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☆  空気の匂いが変わった気がして、再び扉を押すと、今度はあっさりと開く。教室のどこにも運の姿はなくて、どうやら元の時代に帰ってきたらしいと悟った。  ピアノに近づいて、椅子に腰かける。運の日記を開くと、「また逢う日まで」と書き込まれていた。滲む視界の中、鍵盤に手を置き、夜想曲を弾く。運の息づかいを思い出しながら。ふたりで見た夕焼けを思い出しながら。  弾き終えると、教室の扉が開く音がした。末吉先生が拍手しながら入ってきた。 「放課後のピアノの正体はお前だったか。今野。いい演奏だった」 「……ありがとうございます」 「でも残念なお知らせもある。明日から旧校舎への出入りはやめたほうがいい。監視カメラでしっかりチェックすることになったから」  先生曰く、午前中のうちに設置されるとのことだった。運にはもう会えないんだと思い知らされる。生まれ変わったら会いにくるだなんて、夢物語だ。 「そうだ、今野。合唱部の伴奏やってくれない?」  来月の合唱コンクールに出るのに、伴奏者が骨折してしまったらしく、コンクールまでに治る見込みがないらしい。顧問が弾いてもいい場合もあるけれど、そのコンクールでは伴奏も生徒じゃなければいけないのだと言う。自信がないと断ったけれど、どうしてもと懇願されて引き受けることになった。
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