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日記を読んだ君は、誰? 人に読まれる想定じゃなかったから驚いたけれど、君は僕と感性が似ているようで嬉しいよ。
それにしても君が使っている筆は繊細な表現ができるようだね。色も美しい。僕は鉛筆を使っているけれど、そんなに細い線は描けないな。
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この返事を書いたのは日記の持ち主のように思える。そんなことがあるだろうか。私が書いた内容を、今よりも何十年も前に生きる人が読んでいるなんて。ありえない。きっと、誰かがこの日記の持ち主に扮して返事を書いてみただけなんだ。
もしかしたら今、私がここにいるのも見ているかもしれない。日記から顔を上げ、そうっと扉へ近づき、廊下を覗く。
「誰もいない、か」
残念なようなほっとしたような。もう一度日記とにらみ合う。ボールペンを取り出し、返事を書きこむ。なりすましだとしても、もしかしたら友達になれるかもしれないなんて淡い期待を抱いて。
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勝手に読んでしまってごめんなさい。私はこの学校に通う生徒です。『美命』と呼んでください。あなたの名前も知りたいな。
オレンジ色、素敵でしょう。私も気に入っているの。でも、あなたの字もとても綺麗。
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そこまで書いて、はっとする。やっぱり、この返事を書いたのは日記の持ち主なのではないだろうか。今日より前の頁を見てみても、筆跡はずっと変わらない。内容は簡単に偽ることができるけれど、筆跡を完璧にコピーするのはきっと難しいはずだ。高鳴り始めた鼓動を抑えつけるように日記を閉じた。
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