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病院らしいってどういうところから感じるんだろう。
脈拍を測っている機械の音。消毒液の匂い。心地よい温度。着慣れない服。
目を開ける前から、なんとなく病院らしい感じがしていた。目を開けてみれば白衣の男性のお医者さんが一人いて、腕につながった赤い液体の点滴を確認していた。私が目を開けたことに気づいた先生は、笑顔で話しかけてきた。
「こんにちは木崎さん。体調はどうかな。」
反射的に頷いた。よく考えてみると頭は痛いし、首のあたりがチクチクする。慣れない点滴の刺さっているあたりも見ているだけで痛みを感じてくる。
なんで病院にいるんだっけ。ていうか今は何日。何時だ。
私は、真っ白な個室の真ん中に置かれたベッドに寝かされていた。角部屋なのか正面と左側が窓で、そこからは少しだけ明るい光が漏れていた。白いバインダーが線状の影を床に伸ばし、それ以外に自然を感じられるようなものは何もなかった。
「お腹は空いた?一応さっき昼食の配膳が終わったところなんだけど。」
先生は優しい声でこちらの顔を覗いてくる。痛みを感じるよりも、なんとなく異質なこの病室のような場所に理解が追いつかない。
「お腹は、空いてないです。」
そう言って見上げると、先生は変わらず穏やかな笑顔だった。
「そう。じゃあ早速説明始めちゃうね。今担当を呼んでくるから。」
なんの特徴もない真っ白な後ろ姿を見送って、部屋中を見渡す。
本当に何もない。違和感。
「説明。」
つぶやいてみた。だだっ広い部屋に小さな声が飛んで落ちた。急に不安を感じた。余命とか言われるんだろうか。ただならぬ予感はするし、少し時間が経ったら眠る前のことを思い出してきた。
「僕の研究に協力してくれたら、君は一ヶ月の命を確保できる。」
そう言われたんだ。薬を差し出されて。そして倒れたということ?
どうすることもできなくて動けずにいると、突然「失礼します。」と声がして扉が開いた。
そこにはホテルの前であった男の姿。黒いコートではなく、さっきの先生と同じ白衣を着て立っていた。
「城田望。」
「覚えているみたいだね。よかった。あの薬は時々記憶をなくしちゃう子もいるんだよ。」
ははは、と朗らかに笑って近づいてくる。さっきの先生と違ってネームカードをつけておらず、胸ポケットに差した黒いペンの頭の艶が光っていた。そして持っていた大量の資料の中から、数ページ綴りの書類を渡してきた。
「君が寝ている間に検査した結果、うちの研究の見立て通り血球欠乏性貧血だった。この病気は何もしなければ赤血球が減っていって酸素が体に回らなくなって死んでしまう。それまでに最短で一ヶ月って意味だよ。正確な寿命はこれから検査したらわかると思うよ。あくまでも薬を断れば、の話だけどね。」
まあ君はそんな簡単には死なないか、と呟いた言葉の真意はわからない。
「でも、今までの病院ではそんなこと言われてないです。」
だからずっと鉄分の薬を飲んできたというのに。やっぱり違いましたなんて話では収まらない。
「あーいや、君のタイプは、併発?」
疑問系で答えて笑ってごまかそうとする感じを見て苛立ちが募る。城田は手に持ったファイルを見ながら鼻の横をかく。まるで大したことないみたいに。
「あ、ご家族がもう少しで来るはずだよ。既に説明も済ませて了承は得ているし。ここは一応政府公認の研究機関だからね。治療費もかからないし、入院にかかる費用もない。ただ薬は、君との交換条件だ。まあとりあえず援交のことは黙っててあげるから安心して。」
救いと脅し。この相反した二つは、今の私にとって逃げ道がないことを突きつけていた。
ふと気が付いた時には、バタンとスライド式のドアが戻って当たった音がしていた。
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