第4章 集合る -あつまる-

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第4章 集合る -あつまる-

「現在経過観察中は4名です。」 報告会で召集がかかるのは1年ぶりだ、と先輩の正田が昼休みに話していた。報告会のときは、新たなストローが見つかったときと決まっているらしい。 司会を務める大場は集まった大勢の警察官と研究員で埋め尽くされた異様な雰囲気に緊張していた。 資料を映し出したスライドを見ながら、震える声で話し出した。 「左から、木崎紗里奈、伊藤祐輝、遠藤由紀、葉山大智。伊藤と遠藤は現在同じ大学に通う二十歳。伊藤は以前の報告会時から変わらず、通院措置をとっています。遠藤はおそらく伊藤からの感染かと。ほかの感染ルートは分かっていません。感染方法についてはまだ解明中の部分が多いため、第四班は伊藤と遠藤の調査から感染方法の解明をお願いします。」 前から二列目の一番左に座った男が手を挙げた。第二班の佐々木だ。 「佐々木さんから現在の状況の報告です。」 佐々木は立ち上がり、身体を全員の方に向けた。 「遠藤は、すでにテストを終えました。薬を投与し現在は通院措置を取っています。葉山は両親を襲った際の行動から発症が確認されているものの、その後の消息がわかっていません。木崎に関しては非常に特殊なケースですので、城田先生が担当してくださっています。」 スライドの前に座っていた城田が軽く会釈をし、会場全体がざわめいた。城田はこの病気の第一人者だ。普段の会議にはほとんど姿を現したことがない。それなのに誰もが振り返るイケメンと噂だった。この会場にいるほとんどの人間が初めて城田を見て、そのオーラに圧倒されていた。城田はマイクを持ち、話し出した。 「彼女は鉄欠乏性貧血を患っています。本来であればストロー感染の対象外となるはずの人間です。そのため解明を急ぐべく、実施テストを先日行いました。結果は陽性。阻害剤を投与し、今は入院させて諸々の検査を進めている状態です。報告は以上です。」 「では、第三班は今後葉山捜索に全面的にあたり、他はこれまで通りでお願いします。以上で、報告会を終わります。」 大場がマイクのスイッチを切り会場を見渡すと、一番後方にいた正田が配られたプリントを丸めて真っ先に扉に向かったのが見えた。急いで追う。廊下に出て追いついた途端、正田は口を開いた。 「ほんと参るわ。こっちは殺人とか強盗とかそういう捜査したくて警察入ったのに、やってるのは病気の経過観察だぜ?」 聞き慣れたそんな愚痴を交わすのにも慣れてきた。 「そんなこと言ってるとまた怒られますよ。」 五メートル先くらいに第七班の班長である瀬戸内の姿が見えて、大場は静かにたしなめた。いわゆるこの「日本輸血研究センター」を活動拠点としている「ストロー対策本部」に出向のような形で勤務しているのは、警察組織の中でも不運中の不運だと言われている。その中でも大場と正田の所属する第七班は主に新たな発病者[ストロー]の確認を行い、病気を認定する部署。現在の患者の管理を行う部署、感染ルートを調べる部署など多数存在するが、第七班は感染候補者の前で実験的に発作を起こさせる状況を作り出し、感染している、つまり人の血を摂取する行動が見られ次第確保する実験を行う部隊、別名「グロ班」と呼ばれていた。 大場は捜査一課に配属後、自主的に「スト対」に異動を申し出た。そして希望してこのグロ班にきた。理由は単純に「見たいから」だ。 「俺も捕獲の瞬間に立ち会いたかったっす。俺それが見たくて異動願出したとこあるんで。」 正田は前回の光景を思い出したのか胸を押さえながら呟いた。 「捕獲って、患者の前で絶対に口にするんじゃねえぞ。しかも人が人の血を舐めるところなんて見て何が楽しいんだ。ハイリスク・ローリターンじゃねえか。」 「いやいや。俺からしたら人類の進化の証拠っすけどね。」 相変わらずしょげるふりをする大場を見て、正田はため息をついた。
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