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1 ニラヤ
「さすがにあの画像はフェイクじゃないですかね。ネタとしては刺激があって面白そうですけど」
いつものように軽口を叩くと、吉岡はワイパーのスイッチを入れる。見上げると、濁った空から降り出した雨が車のフロントガラスをぽつぽつと叩き始めていた。
「むしろ悪戯であってほしいがな」
溜め息とともに助手席の窓を閉める私に、ハンドルを握った吉岡は眉をひそめる。
「冗談でしょう? 大の男が二人してこんな所までドライブなんて。無駄足なんて勘弁ですよ、俺は」
「簡単に言うがな、本当に現場に死体なんてあってみろ。メールを見たうちの編集部の人間は、全員警察に取り調べされることになる」
ポケットから取り出したスマホで、メールで送りつけられてきた写真を開く。そこには、後ろ手に縛られて両足を切り落とされた男の画像が写っていた。
横目でそれを見た吉岡が、苦笑いを浮かべる。
「まあ、確かにインパクトはありますね。俺みたいな現場カメラマンはその手のグロい画像にも割と耐性ありますけど、普通の人が見たら卒倒もんですかね」
「どうせ信じてないんだろ。実際、カメラマンとしてどう思う。本当にこの画像が偽物だと?」
「正直、その写真だけじゃ分かりませんね。画像なんて、後からいくらでも加工できますしね。ただ、もしその画像が本当だとしたら、それだけ出血していたらとても生きてはいられないでしょうね」
「……」
がくりと頭を下げた画像の男は、四十代くらいだろうか。両足の太腿辺りから流れ出した鮮血が、男の座る床に血溜まりとなって広がっていた。
真っ赤な肉と白い骨の切断面が生々しく映る画面を、苛立たしげに指で弾いて閉じる。
『ニラヤ』という人物からメールが編集部に送られてきたのは、三日前のことだった。
両足を切断された男の画像を添付したメールには、今日の日付と場所だけが短く記されていた。
窓枠に頬杖をついた吉岡が、口の端を上げて言う。
「もし真相が知りたかったら、実際に来て確認してみろってことですか。随分と挑発的な奴ですね」
「愉快犯ってやつか」
「さあ。でも背景にコンクリートの壁が写ってますから、多分どこかの廃墟なんでしょうけど。でもイタズラにわざわざ突き合わされるってのも、癪なもんですがね。そこまで行って何も無かったら、編集部のいい笑い者ですよ」
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