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後を追って祈祷所から廊下へと走り出ると、本殿の方から何かを叩き壊すような激しい物音が聞こえてくる。
「奈々緒っ!」
本殿に着くと、祀ってあった御神体の霊石が粉々に叩き割られ、真っ黒に焼け落ちた紙垂や榊の葉が床中に散らばっていた。
「こ、こんな……」
無残に荒らされた建物の中を進んでいた時、突然外から紗月の悲鳴が聞こえてくる。
「さ、紗月っ!」
建物から外に出た私が見たのは……、
白い雪の上に、真っ赤な血の雨が降り注ぐ光景だった。
「そん、な……」
茫然とする私の元に、石階段を駆け上がってきた紗月と史恵が駆け寄ってくる。
「パパ!」
「紗月!」
血に濡れたその体を抱きかかえる。
「怪我してるのか!?」
「大丈夫、突然この赤い雨が降ってきて濡れただけ。で、でもこの雨……」
青ざめた表情で答える史恵の腕を、もう片方の手で掴んで引き寄せる。
鉛色に淀んだ雲から降り続く赤い雨が、さらに激しさを増していく。
真っ赤な血に染まっていく目の前の風景に、体を震わせた紗月が私の体にしがみつく。
「パ……パ」
「俺の傍から離れるな」
紗月と史恵を抱きかかえた腕に、力を込める。
見上げると、降りしきる赤い雨の中、霧状になった黒い粒子が空一面を覆うかのように広がり始めていた。
(終)
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