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「まさか担任の名前まで覚えてないとは思わなかった」
「興味ないと覚えられないもので」
このままだとよくないなーとは思ってるよ。でも覚えられないものは覚えられない。
「…俺の名前、言えるよね?」
「久瀬爽汰」
「よかった」
流石にここまでお世話になっておいて覚えてないのは失礼でしょ。俺をなんだと思って…いや、まあ隣の人の名前くらい覚えとくかふつー。久瀬の中の評価が低くても仕方ない
「もうすぐ数学準備室だよ」
いいやつだなぁ。ゲームは教えないけど
「着いたよ。ここ」
「うん」
でか。職員室じゃないんだよな?でもちゃんと数学準備室って書いてある。
よし、行くか
「担任の名前、隠岐…なんだっけ、ほすとだっけ」
「尚人だよ…」
「そうだったかもね」
もうホストでいいじゃん。名は体を表すってね
めんどくささを振り切り、意を決してノックする。
──扉を開けると そこはホスト部でした。
なんてことはなく、参考書がたくさん置かれた教室でした。そしてホストのような格好の般若が椅子に座っていました
姉ちゃんが奇声をあげる横で見てたけど、あれ女子向けかと思えば結構深くて面白かったな。ちらっと見てただけだけど、俺はあのメガネの先輩が好きです。あんなエゴイストになってみてぇもんだ
現実逃避はここまでにして
「失礼しました」
「おいこら」
なんだかめんどそうなので退散しようとしたら首根っこを掴まれてしまった。猫じゃないんだが
そしてなんでこんなに怒られているんだろうかいわれた通りに来たしそんなに待たせてないと思うんだけど
「テメェまずはいうことあんだろうが」
「えーと、こんにちは」
「あ゛?」
「こにゃにゃちは?」
「何言ってんだテメェは」
姉ちゃんが見てたアニメ第二弾は不発か。今回のはタイトルも出てこないけど。
「“すみません”だろーが。ったく俺に手間かけさせやがって」
「はぁ、スイマセン」
「早くこっち来て座れ」
大人しく担任に指された席に着く。これ以上怒られたくないしな
「さて佐倉、まずは俺の名前を言ってみろ」
「隠岐尚人先生です」
「そうだよなー言えるよなーついさっき久瀬に教えてもらってたもんなぁ?誰がホストだ」
わおばれてる。豪華な割に壁薄いのかここの校舎?今度から気をつけよう
この人ホストって言われたくないなら服装変えればいいのに。狙ってその服装にしているわけではないのか
「服は趣味だから俺は変えん。お前らが変わりやがれ」
なぜばれたし
「顔隠れててもお前わかりやすいんだよ。それでだ。まずは入学手続き完了の書類な。目ぇ通して親御さんに渡せよ」
久瀬といい担任といい勘が良いだけでは?うわ書類めっちゃある…重いなこれ……めんどくさ
「ありがとうございます」
「あぁ、あとその学生証の使い方な」
俺の腕についてるスマートウォッチを指して担任がいう。なるほど、もうこのスマートウォッチ自体を「学生証」って呼ぶのね
「なんですか」
「使い方なんだが、まぁ通常のスマートウォッチと同じような感じで使えるからわからないことがあれば都度聞いてくれ、繰り上がり組に。キャッシュレス決済のチャージ方法は……お前はオートチャージにしてあるみたいだから問題ないな」
説明丸投げかよ。久瀬に大体聞いてあるから問題ないけど。
この学生証決済もできるんだ。知らなかった。あとで父さんお礼の電話しなくちゃだなぁ
まだ終わらんのかな。早く帰って荷解き終わらせてゲームしたい
「それと最後に、マスク外せ」
「え」
家庭の事情だってのにまだ外したがってたのかこの人そんなに俺のこと大好きなの?
「自分の受け持つ生徒の顔ぐらいちゃんと覚えときたいんだよ」
思ってたよりしっかりした理由だったな、ごめん担任。でもなぁお姉様の命令なんだよなぁ。お姉様の機嫌取りと担任の機嫌取りを比べたらお姉様の機嫌取りがコンマ1秒で圧勝するからな。優先度もダルさも怖さも
「やっぱムリです」
「そういうと思ったよ……っと!」
そう言うやいなや担任はあろいうことか俺のマスクを奪い去りやがった。咄嗟に手で顔を隠したからいいものの生徒になんてことしやがるかこのやろう
「返してもらえます?家庭の事情だって言ってるでしょ」
実際はお姉様の命令だけど。いくら醜い顔だからって、ほんとなんで隠さなきゃいけないのかね
「お前がどんなに醜い顔してよーとこちとらどーでもいいんだよ」
「そういう問題じゃ…」
「秘密は必ず守る」
「……」
もういいか。なんかもうめんどくさいよ。うん。パッと見せてパッとマスク返してもらってパッと帰ろう
「俺の顔見たって誰にも言わないでくださいよ。なら別にいいです」
そう、要は姉ちゃんにバレなきゃいい話だ。
担任に念を押して顔を隠していた手を下ろす。ついでに長い前髪も上げてあげた。ワーオレッテヤサシイ。ってかこの前髪そろそろ切ろうかな。邪魔になってきた
「「……………………」」
なんか言えよ担任。そんな目見開いて固まることないでしょうが。いくら俺の顔が醜いからって
「あの」
「うぇっっ!?」
うぇっってなんだよw 夢ならばーどれほどーよかったでしょーってかw
残念ながらあなたが望んで見たものなので夢にはできません現実です
「もういいですよね?マスク返してください」
「あ、あぁ」
俺にマスクを返した担任は今度はキョロキョロし始めた。挙動がかなり怪しいけど大丈夫か?
「帰っていいですか」
「お、おう。いやちょっと待て!」
なんだよ。久瀬も待たせていることだし早く帰りたいんだが
「佐倉、お前学校でマスク取るのはやめとけ。前髪もそのままでいい。というかそのままにしろ」
「は?」
「いいな?」
「はぁ」
圧がすごい圧が。前髪切ろうと思ったとこなのになんだよ
担任に隠せと言われるほどひどい顔なのか俺って…知ってはいたけどちょっとショックだな
「……っっ!!お前!外で絶対にその顔するなよ!?」
「はい?」
その顔?
担任にすごい勢いでそう言われ再びショックを受けつつマスクをつける
「じゃあ失礼しました」
「あぁ、気をつけて帰れよ。本当に、気をつけて」
なんだ急に優しいじゃん。やっぱ根はいいやつなのかな。姉ちゃんにバレないことを祈ってかーえろっと
◇◆◇◆◇◆◇◆
◇隠岐尚人side
「っくそなんだよ」
話はまともに聞かないわ顔もろくに見えないわで手のかかりそうな奴、というのが佐倉灯の印象だった。
家庭の事情で顔を隠しているというから、てっきり金持ち特有の醜い子供を隠しておきたいというクソ思考だと考えていた。
そんな俺の浅はかな考えは簡単に打ち破られたわけだが
顔を隠す手を下ろして出てきたのはスッと通った鼻筋と赤く色づいた艶やかな唇。肌の白さも相まって一層際立って見えるそれは、およそ男のものには見えなかった。次いで持ち上げられた前髪の下からは、異国の血でも混ざっているのか猫目がちな深い藍色の瞳がこちらを覗く。その瞳が一度伏せられたことで縁取る睫毛の長さが際立って見えた
メガネをかけていても隠しきれない美しさに、思わず声を失ってしまった。無駄に美形の多い環境で生きてきたため美形なんて見慣れていると思っていたが、アレは別格だ
まったく感情が読み取れない表情のせいで人形のような無機質さを感じていたが、少し落ち込んだように眉尻が下がったときには思わず甘やかしてやりたくなった。教師としてのプライドでなんとか踏みとどまったが
素顔を見た今なら、アイツに顔を隠すように言った奴の気持ちがわかる。英断だと褒め称えたいくらいだ。理性という文字が頭にない性欲に塗れた奴らが多く存在あするこの学校では、ヒョロい上に自覚のなさそうなアイツはすぐに喰われてしまうだろう
「……何もないといいが」
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