266人が本棚に入れています
本棚に追加
久瀬と合流し、壁の薄さのことも考えて中の会話が聞こえていなかったか確認した。どうやら聞こえていなかったようなので一安心である。
久瀬の案内で寮に向かって歩いているけれどもう3分は歩いたよね?敷地内ひっろ
「佐倉くんって家族以外と生活したことある?」
「いや、ないけど」
「そっか、じゃあ大変かもね」
中等部から全寮制で、1年生は3人共同生活なんだっけ
「部屋割りは抽選だから、誰になるか楽しみだね」
「ソーダネ」
興味ないわごめん。うるさくなきゃいいな
「あ、ここだよ」
「うん……え」
でか。ずっと見えてたけどなんだろなーとか思ってました。ここですか
ほえー今日から住むんだよね?ほんとに
「佐倉くん、どうしたの」
「え、あ、ううん」
久瀬は慣れたように中に入っていく。置いてかないでおねがいだから
◇◆◇◆◇◆◇◆
すーげー
中に入ってすぐの天井からキラッキラなシャンデリアが吊り下がっていた。生徒が住むだけなのにこんなに金かける必要ある?俺はいらないと思うんだ
「佐倉君、こっち」
「こんにちは」
久瀬の横にはこれまた整った顔立ちの方が立っていた。前髪は流して後ろ髪は緩く結わえているミルクティー色の髪にタレ目がちなチョコレート色の瞳。色合いや顔立ちは甘さを感じさせるけど全体を見るとなぜかカッチリと締った印象を持つ
生徒ではない?よな?年齢不詳感すごいけど
「はじめまして。佐倉灯くんだよね?私は高等部の寮監を務めている仙波和樹《せんばかずき》です」
入学式の時いた職員とか担任とかこの人もそうだけどこの学校の雇用基準に顔面偏差値があるんじゃないかってくらい顔面が整ってる
例外は校長くらい。ふくよかでにこにこしてるいい意味で普通の優しそうなおじいちゃんだった。さっき久瀬にそう話したら絶対に怒らせてはいけないと釘を刺されました。覚えておこう
「佐倉くん?大丈夫?」
「……!すいません大丈夫です。はじめまして佐倉灯です。よろしくお願いします」
ぼーっとしてたら心配そうな目で見られてしまった。こんな見た目不審者に初対面で顔見つめられるのって気持ち悪いし失礼だよな。申し訳ない
そして久しぶりに長文を口に出した気がするよ
「大丈夫なら良かった。とりあえず中に入って」
促されるままに「寮監室」という札が下げられた部屋に入る。久瀬は俺がぼーっとしている間に中へ入って高級そうなソファの上でくつろいでいた。
だからこんなに金かける必要ある?それとも見た目豪華なだけ?いやそれはそれでダサいな
「それじゃあ改めまして、仙波和樹です。寮生活の中でなにか困ったことがあったらいつでも頼ってね」
「「はい」」
「久瀬くんは知ってるだろうけど、寮の門限は21時。それ以降になると自動で施錠されます。外にいた場合は入れなくなってしまうから気をつけてね。寮外や他の子の部屋に泊まる時は事前に申請すること。申請無しで泊まっていた場合はイロイロ罰則があるから気をつけてね」
妙に艶っぽい声で忠告された。“色々”に含みがあった気がするんだけど気のせいだよな?
「1階にはロビーと寮監室、大浴場につながる渡り廊下への扉があるよ。2階には24時間営業の食堂とコンビニがあるからいつでも利用してね。それから、1年生はあんまり利用しないだろうけど、15階にコンビニとラウンジがあるよ」
職員寮は別にあるって聞いてるから生徒だけが住むんだろうけど、生徒のためだけにコンビニまで入ってるのか……すごいな
大浴場は小さい時からダメって言われてるから関係ないけど、それにしてもすごい
この学園の財力に感心していたら仙波さんがなにやらパソコンをいじりだした
「それじゃあ部屋割りを発表しようか、えっと……ふたりとも809号室、すごいね同室だよ」
「「え」」
まじかすごい偶然。おい久瀬うれしそうにこっち見るな
「すごい偶然だね!知ってる人と一緒でうれしいよ」
純粋な好意が身に染みる……。まぁ俺も知ってる人で良かったけど
809ってことは8階か、遠いなぁ。2、3年生は更に上なんだから来年からはもっと遠くなるわけだけど
「鍵の登録をするからふたりとも学生証をちょっとの間貸してくれるかな」
ほんとにスマートウォッチが鍵なのか。すごいな
腕から学生証を外し、仙波さんに預ける。仙波さんはそれらを寮監室の奥の部屋へ持って行ったあと、部屋に鍵をかけて戻ってきた。
「ちょっとだけ時間がかかるけどごめんね」
「「はい」」
ふと、姉ちゃんにお世話になる人がわかったら連絡するよう言われたことを思い出した。
「すみません。スマホ使っても大丈夫ですか?」
「もちろん大丈夫だよ」
何故か非常に嫌な予感がしながら連絡先から「鬼」を選び、トーク画面を開いた。
最初のコメントを投稿しよう!