悩み

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悩み

カツカツと、教員棟に足音が響く。足音の主───高月凛也は、整った顔を僅かに強ばらせ、先程友人の健に言われた言葉を思い出していた。 『お前が悩んでるのって俺たちにも言えないことなのか?だったらカウンセリング?だっけ?行ってこい!解決するまで…戻って来んなよ!』  俗にいう「ツンデレ」である健の言葉は、凛也を心配するものだった。凛也もそれが分かっているため、渋々ながら、カウンセリング室のある教員棟にやってきたのだった。  それにしても、しっかり者で周りをよく見ているもう一人の友人、桂助ならまだしも、普段から単純で抜けている健に気づかれるほど、自分は顔に出ていたのだろうか。表情を作ることには慣れているつもりだったが…  とはいえ今回の悩みは友人に簡単に話せるようなものではなかった。かと言ってカウンセラーに話せるかというと、答えは否だが。  そうこうしてるうちに、教員棟の端に位置するカウンセリング室の扉の前まで着いた。  今年の四月、『教師・生徒にとってより良い環境づくり』の一貫として新設されたのがカウンセリング室だ。週に二日、月曜日と金曜日にスクールカウンセラーが来校し、悩みや相談を聞いてくれる。  開設当初は利用者が少なかったものの、カウンセラーの先生がイケメンだったこと、彼自身もイジメを経験していたこと、何より本当に親身になって話を聞いてくれることから、一ヶ月たった今では利用者が急増している。  扉にかかっている札には『〜相談受け付け中〜 お気軽にどうぞ!』とくまのイラストつきで書かれている。凛也は気になって裏を見ると、くまが申しわけなさそうにしているイラストとともに『〜相談中〜 また来てね』とあった。  凛也は入るべきか否か、立ち止まったまましばらく考えていたが、やがて決心したように扉をノックした。  中から「どうぞ〜」という声がして、教室に入る。部屋の主は事務仕事をしていたようだった。 「ごめんね〜。仕事が溜まってたもんで」  男は笑いながら顔を上げた。その笑顔をみた瞬間、凛也は固まってしまった。  悩みの原因が、そこにはいた。  直後、凛也の体に甘く痺れる電流のようなものが走り、今まで悩んでいたことが嘘のように、ひとつの感情が頭の中を埋めつくした。 「はじめまして、僕は三崎成といいます。ところで今日はなんの用で…って、え!?君!大丈夫!?」  固まっている凛也を見て成は慌てている。 ───あぁ、やっぱりそうか…。やっぱり俺は…… 「成、あんたが好きだ。」 「…はい?」  成は、本当に理解できなかったというような、そんな顔をして、凛也を見つめ返していた。
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