赤と白 第二章 2

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  「救急車が来るまで、ワカナを手当てしろ!誰か看護の経験者は居ないのか!」 「ジミー、皆んな歌劇音楽学校出身だから居ません。」 「島崎、いませんじゃないだろ! アルゼンチンの人達にも聞け!」 「は、はい。」 「取り敢えず、観客は待っている。  この事は観客に言わず、皆んなをステージに向かわせろ!」   「私、行かない!  若菜に付いてたい!」 「アカネは舞台に行かないと……  分かった。  急いで若菜の所に行きなさい! 後は、私達に任して。」 「ありがとう。ジミー・ブラウン。」 「ジミー大丈夫ですか?  最後の挨拶、歌劇Y&Aが居なくて……」 「ワカナは、どうやってステージに立てるんだ!  そして、動揺しているアカネにステージに立たせるのは酷すぎる。  福岡歌劇団の仲間達も動揺が有ると思うが彼女達はプロだ。  舞台挨拶が終わったら、観客にワカナの状況を報告しよう。  観客の中にワカナを射った犯人が居るかも知れない。  入り口、出口、関係者の出口全て、通行止めにしろ!  観客を外に出すな!」 「ジミー、さすがだ!  警察が来る前に的確な指示だよ。」 「無駄口はいい!  早く皆んなに伝えなさい。」 「は、はい。」   「若菜……」  そこに倒れていたのは、床面が真っ赤に染まって倒れている若菜の姿だった。  アルゼンチンの三人が若菜の応急処置を行なっていた。  スペイン語の通訳の人も駆けていた。 「若菜、若菜、若菜、大丈夫?」  【非常に危険ですので触らないで下さい。】   若菜は振り絞って喋った。 「私達、やり遂げたね……  もう、悔いは無いよ。  有るなら、ナベちゃんの事だけが心配なだけかな……  茜、楽しかったね!  あなたが居たから私は、成長出来た。  かすみ草の力を借りなくても……  何か、私、予想してたの……  こうなりそうな予感が……  だから、今までで最高の演技が出来た。  天国に行けるかな?  真っ先に逢いたいのは、  おばあちゃんかな……  沙月かな…  早く二人に逢いたい。  茜、私、あなたに出会えて良かった。  ありがとう……  茜は、ステージに戻って……  若菜は、右手を差し出して茜と手と手を握り締め若菜は、息を引き取った…… 「若菜!若菜!若菜…」    渡辺若菜(二六歳)スペイン、ブエノスアイレスの地で短い人生を終えた。  
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