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十・最終話
現在、二〇六七年
長い話を聞いて貰って、悪かったな。
今年で、私も九〇歳を迎えたよ。
妻も先立ち、残された家族は誰もいない。
壁に飾られた、ドライフラワーのかすみ草だけが私の話し相手だ。
私の政治改革で日本、いやっ、世界が変わったんだ。
今、この世の中、欲しい物はすべて手に入り、病院だって医療機器を装備した医療機器車が出来、手術さえ車の中で行われる時代になった。
入院せず、自宅に看護師や先生がやって来る。
便利にはなったが、私は大事な何かを忘れていた。
人との繋がりだ。
あの時、私は一人で突っ走っていた。
若菜は、たくさんの仲間に支えられて人間的に素晴らしく成長した。
最近になって、やっと私は目が覚めたんだよ。
ロボット、AI、今の私には、全く必要がない。
私は今、人との温もりが欲しいだけだ……
かすみ草の花言葉は七つ
「永遠の愛」「幸福」 「純潔」 「感謝」
「清らかな心」 「無邪気」 「親切」
「あなた、また独り言で同じ事を言ってますね。」
「あぁ、茜か……」
「しっかりして下さいよ。
私達、結婚して五〇年以上経ったのですよ。
私がすべて、あなたのお世話してるから、ロボットやAIとかで、私の事を全然、見てなかったでしょ!
私はあの時、若菜から頼まれたのよ。
1番心配なのは、ナベちゃんだって……
茜……ナベちゃんの事を頼むって、私の手を握って言ったわ。
私と彩月の分までナベさんを宜しくって。」
「その話は何回も君から聞いたよ。
お前は何でも気が効いて最高の妻だから、ついつい甘えて、お前の存在を忘れてしまうわ。」
「失礼な人だわね……
赤い薔薇の花言葉も知っていますか?」
「もちろん、私の愛する妻の薔薇くらい知ってるよ。」
「あなたを愛してます」「愛情」「美」「情熱」「熱烈な恋」「美貌」
テーブルの真ん中には、かすみ草と一本の赤い薔薇。
そして、テーブル真ん中には彩月と若菜の写真が飾られていた。
完
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